薬物使用のコントロール障害を主症状とする症候群で,通常,アルコールは別に扱われる。意志の力ではやめられない状態であり,背景には脳内報酬系の機能不全が起きている。わが国の問題薬物は覚醒剤と鎮静薬が中心である。
ICD-10では,「薬物使用への渇望」「コントロール障害」「離脱症状」「耐性の増大」「薬物使用中心の生活」「有害な結果が起きているにもかかわらず使用」の6項目中,1年間のある時期に3項目以上満たせば依存症と診断される。DSM-5では,「乱用」と「依存」を合わせて「使用障害」に統一された。薬物使用が繰り返され,問題が起きていてもやめられなければ薬物依存を疑う。
薬物には,覚醒剤,コカイン,ニコチンなどの中枢神経興奮作用を持つものと,アヘン類,ベンゾジアゼピン系などの鎮静薬,有機溶剤,大麻などの中枢神経抑制作用を持つものに大別される。ほかに幻覚剤などがある。
薬物依存の治療は,治療関係づくり,治療の動機づけに始まる。患者に陰性感情を持ち批判的な態度で臨めば,治療は頓挫する。患者を病者として尊重し良好な関係を築くことが治療の肝である。そして,重要なのが治療の動機づけである。動機づけ面接法,随伴性マネジメントなどを取り入れるとよい。断薬の強要や薬物使用に対する叱責は禁忌である。患者は病者であり,「やめない」のではなく,「やめられない」ことを理解した対応が求められる。
薬物依存の背景には人間関係の問題がある。幼少時からの虐待,いじめ,性被害などの外傷体験を誰にも話せず内に秘めていることが多い。患者の薬物使用は,「人に癒やされず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」ととらえることが適切である。人間不信と自信喪失が患者を孤立させている。気分障害,不安障害,パーソナリティ障害,発達障害などの併存疾患を持つことも多い。これらに対しても統合的に治療する。
薬物療法は不安や焦燥,抑うつ,妄想などに対して行い,精神状態の安定を図るが,ベンゾジアゼピン系などの新たな薬物依存をつくらないように留意する。
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