No.5113 (2022年04月23日発行) P.65
小豆畑丈夫 (青燈会小豆畑病院理事長・病院長)
登録日: 2022-03-25
最終更新日: 2022-03-25
私が働く病院はコロナシフトを敷いて診療を行ってきたために、多くのものを失ったと前回、前々回で述べました。では、コロナに勝ったとして、その後私たちはコロナ前の医療を取り戻せるのか? 私には答えが見つかりませんでした。なぜなら、コロナ後の社会が望む医療は、コロナ前とは違ってしまっていると思うからです。今、医療界に潜む不安は、コロナの不安ではなく、コロナ後の医療をどうするか? 既存の大切な拠り所を失うことを予感しているために生じる、得体の知れない不安なのだと思います。私も不安の只中にあります。
先日、茨城県内にある100年以上の歴史を有する高校の卒業式に参列しました。今年の3年生はその在学期間の大半を、コロナに大きく影響された世代です。今まで当たり前にあった修学旅行も、人を集めた文化祭もできませんでした。彼らを「青春が奪われた世代」と呼ぶ声もあるそうです。式の最後に卒業生代表として男の子が挨拶をしました。
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僕たちはいつも通りの文化祭、いつも通りの部活動、いつも通りの歩く会(注:恩田陸さんが『夜のピクニック』で小説化した、この学校の伝統行事です)、すべてを奪われました。でも、お客を入れない分Youtubeで発信する新しい文化祭を創りました。部活だって新しいスタイルで頑張って、野球部は大活躍でした。奪われたものは「いつも通り」だけで、青春が奪われたわけではありません。僕たちは新しい時代の魁になり、充実した高校生活でした。僕たちと一緒に「新しい」を創ってきた後輩たちは必ずこれを受け継いで、新しい青春のあり方を磨き上げてくれることと信じています。
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コロナ診療に疲れ、コロナ後の医療のあり方を見出せずにいた私は、この高校生の言葉に涙が出ました。コロナ前の世界に戻さなくちゃいけないと思うから不安になるのだ。いつも通り(コロナ前)の医療にこだわるから、「私たちの医療はコロナに奪われた」と感じてしまうのだ。この高校生たちのように、出たとこ勝負でコロナ後の新しい医療を創ればいいのではないか、と思えたのです。そして、私たちが新しい医療を創れなかったとしても、あと15年もすればこの世代が新しい医療を創ってくれるだろう。それまで、何とか日本の医療を守り、私たちがコロナ診療で得た教訓を彼らにきちんと伝えさえすれば、それでいいのではないか、と、急に気持ちが軽くなりました。これが、今のところの私の答えです。
小豆畑丈夫(青燈会小豆畑病院理事長・病院長)[医療の正義⑦]