【tauの蓄積が認知機能障害を引き起こすが,Aβの蓄積がなければ,その症状は軽度とされる】
まず①ですが,Aβは神経細胞の活動によって産生されることが示されています1)。このため,睡眠中は覚醒時よりAβの産生量が減少することが想定されますが,実際,睡眠不足ではAβの産生が増加します2)。Aβの蓄積は産生と分解排泄のバランスで決まりますので,睡眠中に産生が減少すれば分解排泄のほうがまさることが想定されます。
しかし,「睡眠時間が長ければ長いほど良い」ということではなく,睡眠時間とAβ蓄積との関係はUカーブとなります3)。Aβの蓄積は睡眠時間そのものではなく,睡眠の質と関係があるとする疫学データがあります4)。また,ヒトを用いた実験では,睡眠時間ではなく,徐波を伴う深睡眠がAβ蓄積の減少に関係している5)とされています。
“familial natural short sleep”は遺伝的に睡眠時間が極端に短くなる家系ですが,そこで見つかる遺伝子変異DEC2-P384RやNpsr1-Y206Hは,アルツハイマー病のモデルマウスではAβ蓄積がむしろ減少することが示されています6)。
以上から,睡眠中は確かにAβの分解排泄の重要な局面ではありますが,長く眠れば良いというものではないことが示されていると思います。
次に②ですが,tauは加齢に伴って側頭葉内側面に蓄積します。早い人では20歳代から,病理学的な蓄積が確認されます。これは“primary age- related tauopathy(PART)”と呼ばれ,加齢に伴って生じる,ある意味,生理的現象と考えられています7)。PARTでは,Aβの蓄積はまったくないか,軽度です。そして,そのtau病変の広がりに応じて,無症状から軽度認知障害,認知症と様々な表現型を取ることが知られています。ただし,認知症であっても,概してアルツハイマー病に比べて症状が軽度であるとされます。これは,PARTでのtau病変の広がりはBraakステージ(1~6までの6段階評価)では4以下と,アルツハイマー病に比べて軽度であることが理由と考えられます。
Aβとtauの関係はまだ不明な点が多いのですが,Aβはtauの伝播を加速させることが実験動物で示されていますし8),ヒトではAβの蓄積が多い部位ではタウ蓄積も多いことが観察されています9)。このため,Aβはtauの伝播を加速させて,蓄積を増加させていることが想定されます。このメカニズムからは,ヒトの脳では加齢に伴って側頭葉内側面にtauが蓄積することはほぼ必発ですが,Aβが蓄積しなければ,tau病変は拡大せずに,症状は軽く抑えられることが想定されます。
しかし残念ながら,PARTの生活習慣上の予防因子,促進因子はまだ見つかっていません。
【文献】
1)Yamamoto K, et al:Cell rep. 2015;11(6):859-65.
2)Lucey BP, et al:Ann Neurol. 2018;83(1):197-204.
3)Winer JR, et al:JAMA Neurol. 2021;78(10):1187- 96.
4)Ju YE, et al:JAMA Neurol. 2013;70(5):587-93.
5)Ju YS, et al:Brain. 2017;140(8):2104-11.
6)Dong Q, et al:iScience. 2022;25(4):103964.
7)Crary JF, et al:Acta Neuropathol. 2014;128(6): 755-66.
8)Pooler AM, et al:Acta Neuropathol Commun. 2015;3:14.
9)Vogel JW, et al:Nat commun. 2020;11(1): 2612.
【回答者】
岩田 淳 東京都健康長寿医療センター脳神経内科部長