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【識者の眼】「阿蘇、天草で地域医療の現場を視て」邉見公雄

No.5143 (2022年11月19日発行) P.60

邉見公雄 (全国公私病院連盟会長)

登録日: 2022-10-31

最終更新日: 2022-10-31

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先日、熊本県で開催された国立病院総合医学会での講演の前後に、阿蘇と天草の地域医療の現場を視させていただいた。阿蘇を訪れた目的は別にもう一つ。来年には新千円札として登場し、私が日本のダヴィンチと尊敬する北里柴三郎記念館を訪れることであった。過去数回、スケジュールや体調不良で叶わなかったのが実現。曾孫の英郎氏から丁寧に御案内いただいた。

その後、阿蘇医療センターの甲斐院長や小国公立病院事業管理者の片岡先生、院長補佐の玉飼事務局長も交え、阿蘇医療圏の地域医療を語り合った。そして小国公立病院へ。コロナ対応でも全力で頑張っている現場を堀江院長、河津総看護師長の説明で視察。阿蘇医療圏の地域中核病院として、医師不足と戦いながらも何とか持ち堪えている姿を目の当たりにした。しかし、ここも地域医療構想指定病院のひとつである。

講演の後には天草市病院事業管理者竹中先生の御案内で天草市立の栖本、新和、牛深、河浦の4病院を見せていただいた。先生が招聘された理由は、2市8町の合併により旧市町に残る病院や診療所の統廃合、つまり地域医療構想に沿った使命のためであった。しかし彼は、現場に出て、現場を視て、現実的に考え実行する三現主義で統廃合は無理と判断し、機能分化とダウンサイジングを選択した。その勇断は正解、と今回実感した。

まず地理的な問題である。島が広く大きい。北部の上天草市は橋で九州本土と結ばれているが、南の天草市の最南端旧牛深市辺りはフェリーで鹿児島県出水市へ出て九州新幹線に乗るほうが便利と。実際、九州大からの応援医師は博多から出水へ新幹線、そこからフェリーという経路らしい。街は入り江にへばり付くようにあり、クネクネと湾の海岸沿いに行くか、猪も出る薄暗い林道のような道しかない。公共交通機関の便もすこぶる悪く、高齢者は通院も一苦労である。旧市町の離島の診療所はさらに大変である。

民間病院は、精神病院や老人病院を除けばほとんどが本土、牛深の旧2市にしかない。採算性の低い過疎の島では自殺行為? よってこれらの公立病院は地域医療構想の改善指定となってしまうのである。職員は休日にもかかわらず幹部の多くが出勤。中には骨折のため車椅子で働いている方もいた。皆ふるさと愛、隣人愛、医療人としてのプロ意識であろう。コロナでは、いざという時の病院、かかりつけ病院の重要性が増した。霞が関のお偉方にも是非視ていただきたい阿蘇、天草の医療現場であった。

邉見公雄(全国公私病院連盟会長)[地域医療構想]

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