肝吸虫は,コイ科淡水産魚類の生食や不完全加熱調理を通じて経口感染し,肝内胆管に成虫が寄生する。少数寄生では自覚症状を欠くため生前診断がつくことは困難で,流行地での剖検で発見されることも稀ではなかった。肝吸虫症の流行地は,中間宿主であるマメタニシの生息域に限られ,もともとは河口付近の沖積平野で発生する風土病であった。ヒト以外のイヌ,ネコ,ネズミなど哺乳動物にも寄生する人獣共通感染症である。日本国内ではClonorchis sinensisによる感染がみられたが,最近では患者報告が激減している一方,中国南部で淡水魚の生食習慣がある地域では高い感染状況が続いている。タイ北部からラオスにかけて,近縁種であるタイ肝吸虫Opisthorchis viverrini感染の濃厚流行地がみられる。
肝吸虫症は,慢性経過の後に胆管癌発症の原因となることが確認されているため,公衆衛生学的に重要な寄生虫感染症であり,診断がついたら積極的に治療を行う。
自覚症状は乏しく,積極的に肝吸虫症を疑う例は少ない。本症有病地での生育歴がある人で肝機能異常がある場合,特に肝硬変や胆管癌が疑われるケースでは念頭に置くことが必要である。中等症以上では肝臓の超音波検査やCTによって管内胆管の拡張像を認める。検便によって確定診断を行うが,感度は高くないため複数回の検査が必要である。タイ肝吸虫症では濃厚感染になることもあり,流行地への渡航者で食行動からリスクが疑われる場合にも検便で確認するのがよい。肝吸虫は寄生部位への組織侵襲性が少ないため,血清抗体の診断的感度も高くない。抗体陰性でも否定根拠としては十分ではない。
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