No.5143 (2022年11月19日発行) P.57
松村真司 (松村医院院長)
登録日: 2022-11-08
最終更新日: 2022-11-08
過去2シーズン、懸念されていたインフルエンザ流行は幸い起きなかった。長年地域で診療を行ってきたが、インフルエンザ患者を経験しない冬は当院でも初めてであった。新型コロナウイルス感染症対策が功を奏したためと思われるが、それでも医療体制は逼迫した。この冬は、これまで以上の新型コロナウイルス感染者数に加え、季節性インフルエンザの同時流行が想定されており、それに向けた対策が求められている。準備に残された時間はわずかである。
行動制限が行われなかった本年夏の第7波では、都市部を中心に発熱外来がパンクし、症状がありながらも受診にたどり着けなかった患者が多発した。当院でも殺到する電話問い合わせや、直接来院する患者への対応などに忙殺され、通常診療に多くの影響を与え、職員の感染が加わり著しく疲弊した。この冬、第7波を上回る患者数に加えて、例年と同様のレベル、もしくはそれ以上のインフルエンザ患者が発生した場合、既に目いっぱいの努力を行っている多くの医療機関と同様、これ以上の対応は困難である。
国もようやくここに来て、同時流行に向けた対策方針の検討を開始した1)。やや遅きに失した感もあるが、流行が始まる前に方針を打ち出そうとする姿勢は評価したい。現時点で打ち出されている、リスクに応じた外来受診・療養フローと、電話・オンライン診療の拡充を主体とした方向性2)に異論を唱えるものではないが、特に都市部においてこれらで十分な対応であると言えるだろうか。既にここまでの対応で疲弊が重なってきた現場としては心もとないものである。
第7波流行の中途に行われた新型コロナウイルス抗原検査キットのOTC化と自主療養の導入は、その後の発熱外来への患者集中の削減に寄与した実感がある。議論はあるだろうが、やはり新型コロナ・インフルエンザウイルス同時検査キットの活用は、想定される同時流行に向けた対策の鍵になると考える。本稿執筆時点では認められていないものの、市販化に向けての議論は今も続いているようである3)〜5)。これまでのような、流行が起きてからの方向転換は、いたずらに現場の混乱をまねくだけである。今後の議論の行方を注目していきたい。
【文献】
1)厚生労働省:新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00400.html
2)厚生労働省:新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応(案).
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001000887.pdf
3)規制改革推進会議:第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ 議事概要.
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220831/medical08_minutes.pdf
4)規制改革推進会議:第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ議事次第 資料2 厚生労働省 質の確保された抗原定性検査キットの利用環境の整備について(フォローアップ).
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220831/medical08_02.pdf
5)規制改革推進会議:第8回医療・介護・感染症対策WGに関する委員・専門委員からの追加質疑・意見.
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/221020/medical01_0301.pdf
松村真司(松村医院院長)[同時検査キット]