横川吸虫(Metagonimus yokogawai)は体長が1〜2mmの小型の吸虫で,日本では主にアユを生または「うるか」など発酵食で摂食して感染するほかに,シロウオの生食からの感染例もある。感染幼虫であるメタセルカリアがウロコに寄生している。西日本の天然アユにはほぼ100%寄生しているが,養殖のアユでは寄生率は低い。日本国内でみられる成人の吸虫感染としては,横川吸虫によるものが最も多いが,臨床的報告としては減少傾向にある。健康成人の人間ドック受診者で5%以上の寄生率とする報告もあったが,最近数年間の推移については報告がない。横川吸虫は小腸粘膜の微絨毛に吸着して寄生するが,100匹未満の少数寄生ではほとんど自覚症状を欠くため,医療機関を受診することにもならない。
一方,横川吸虫の近縁種である有害異形吸虫(Heterophyes heterophyes nocens)は瀬戸内海から太平洋沿岸地域に分布し,汽水域のボラやハゼなどに寄生している。それを生または不十分な加熱で摂食することで,ヒトに感染する。横川吸虫と同様に,成虫は小腸に寄生し軽度の腹痛,下痢などの症状を呈することがある。
さらに上記2種と形態的に鑑別が困難なものとして異形吸虫症(Heterophyes heterophyes)があるが,海外ではエジプトや中東地域の汽水域魚から感染するため,エジプト駐在からの帰国邦人が現地滞在中にボラを刺身で食して感染した事例が,帰国時健診で散見される。臨床的に重症化例は少ないが,濃厚感染では消化器症状が比較的重度になることもある。
本症は軽度で不定の消化器症状を示すだけであるため,横川吸虫症を念頭に診断することは少なく,むしろ偶然の検査から見つかることが多い。問診でアユやシロウオなどの生食が確認できる場合は,一応念頭に置くことは必要である。また,エジプト在留歴のある邦人で,帰国後の健康診断で異形吸虫感染が発見されることがあり,在留期間中に魚の生食が確認される場合は検便を実施することを考えておく。
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