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条虫症(エキノコックス症を除く)[私の治療]

No.5146 (2022年12月10日発行) P.46

大西健児 (鈴鹿医療科学大学看護学部看護学科教授)

登録日: 2022-12-09

最終更新日: 2022-12-06

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  • エキノコックスを除き,ヒトに感染する医療上重要な条虫として,裂頭条虫科とテニア科の条虫がある。条虫には,成虫がヒトの小腸に寄生し下痢や軽度腹痛などの症状を示すものと,幼虫がヒトの様々な部位に寄生し病害性を示すものがある(例:脳寄生で痙攣など)。日本では裂頭条虫科の日本海裂頭条虫の感染例が,他の条虫による感染例よりもはるかに多い。その他の裂頭条虫科ではクジラ複殖門条虫(大複殖門条虫)や,マンソン裂頭条虫の幼虫であるマンソン孤虫の感染がときどき報告されている。テニア科では,アジア条虫や無鉤条虫の成虫感染,有鉤条虫の幼虫である有鉤囊虫の感染報告が日本からも出されているが,多くはない。なお,有鉤囊虫症は,有鉤条虫の流行地域では重要な疾患である。特に中枢神経系に病巣を形成する症例に注意が必要である。

    わが国における代表的な条虫である日本海裂頭条虫では,幼虫(プレロセルコイド)を保有している第2中間宿主を,生あるいは加熱不十分な状態で摂食して感染する。日本海裂頭条虫の第2中間宿主はサクラマス,カラフトマス,シロザケ(シロザケでは特に4~6月に捕獲されるサケ)で1),終宿主はヒト,クマなどであるが,生活史に関しては不明な点が多い。ヒトへの感染経路は経口感染で,幼虫を保有する第2中間宿主を食材とする寿司や刺身が原因食品として知られている2)

    条虫の成虫は頭節とそれに連なる片節連鎖で構成されている。成虫のヒト寄生例では,全長が数mにも及ぶものがあるが,感染者の症状は軽度である。肛門からの片節や片節連鎖の排出に驚き,不安感で受診する症例が多い。

    ▶診断のポイント

    腸管に寄生する条虫であれば,便から条虫卵を検出することでその寄生を知ることができるが,虫卵の肉眼的な観察で条虫の種類を同定することは困難である。また,一般的に行われている血液検査で,条虫症に特異的な検査項目はない。

    条虫の種類は自然排泄した,あるいは駆虫して得た虫体の遺伝子検査で決めることができる(遺伝子検査については,大学の寄生虫学教室や医動物学教室,地方衛生研究所,国立感染症研究所に問い合わせるとよい)。なお,自然排泄したあるいは駆虫して得た虫体の形態を,精密に観察して種類を決定することも可能であるが,クジラ複殖門条虫以外は高度な技術と経験を必要とし,病院検査のレベルを超えている。

    中枢神経系の有鉤囊虫症では,画像検査所見と血清の抗体価上昇,臨床所見を総合して診断する。なお,手術等で得た組織の病理検査で,有鉤囊虫症と診断されることがある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    腸管寄生条虫症は寄生している条虫の寿命が尽きれば,自然治癒が期待できる疾患である。しかし,感染者の不安感が強く大部分の感染者は駆虫薬による治療を希望する。腸管寄生条虫症の治療法には経口で駆虫薬〔ビルトリシド錠(プラジカンテル)〕を投与する方法と,十二指腸チューブを用いてガストログラフィンを投与する方法があるが,被治療者の負担を考慮して,前者の駆虫薬経口投与による治療を行う。治療で得た腸管寄生条虫の頭節の有無を観察し,頭節を有する虫体が得られれば,原則として治療は成功と考えてよい。なお,観察に適した状態で虫体を得るには,駆虫薬投与前後に下剤を投与するとよい(下記参照)。

    有鉤囊虫症に対し,抗寄生虫薬による治療を行うか否かについては意見がわかれるが,病巣が石灰化していない非陳旧性病巣については,虫体が生存していることも考えられ,治療により病巣の縮小も期待できることから,筆者は抗寄生虫薬〔エスカゾール錠(アルベンダゾール)〕で治療を行っている。病巣が石灰化している陳旧性病巣では虫体が既に死滅していることから,抗寄生虫薬投与の適応はないと考えられる。抗寄生虫薬を脳の有鉤囊虫症患者に投与した際に,変性した虫体の周囲に炎症反応が生じ,頭蓋内圧亢進症状などが出現することがあるため,ステロイドを併用する。

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