ひとつの出来事に関わる4人の登場人物がそれぞれにまったく異なる証言をし、何が真実なのかわからず真相は藪の中となる。1950年に公開され、日本映画初のヴェネツィア国際映画祭金獅子賞とアカデミー賞名誉賞を受賞した黒澤 明監督作品(DVD:パイオニアLDC、2002年発売)
随分前のことになりますが、80歳代の男性がMDS、慢性腎不全のために私の外来に通院していました。ゆっくりではありましたが、病状が進行してきていたため入院加療を勧めることもありましたが、患者さんは病状のことにはあまり関心がなさそうでした。
半年ほど経った頃でしょうか、患者さんが急に悲しそうな顔をして話をはじめました。「先生、実は、長年連れ添った妻が、以前からときどき私のことをわからなくなることがあるのです。お宅はどなた、と言われるのです。妻にそう言われることが、私は辛くてたまりません。私は妻を独りにして入院するわけにはいきません。ましてや、妻を置いて先に逝くわけにもいかないのです」。患者さんの目からは涙がこぼれ落ちていました。
残り386文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する