No.5158 (2023年03月04日発行) P.61
小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)
登録日: 2023-02-08
最終更新日: 2023-02-08
国内外における医療・介護、教育の現場での人手不足が深刻さを増している。いわゆる先進国では少子高齢化の中で慢性的に抱えていた医療・介護人材の不足がコロナ禍でさらに深刻化し、その他の国々においても人口増や少子高齢化などそれぞれの局面で人材不足が懸念され、短期的な解決策だけでなく長期的な医療・介護のあり方を見直す議論が行われている。
解決策の1つとして注目されているのは、ロボットの活用だ。各国において取り組みが行われ、人材不足の救世主になる可能性が模索されている。しかし、MIT Technology Reviewの記事1)などによると、介護現場でのロボットの活用は、設定や介助などを要するため、しばしば介護職の労力を減らすよりむしろ増やす結果にもなる場合があるという。もちろん、移乗での身体的負担軽減の効果など有効な部分は多いが、ロボットの活用だけで人材不足が解決するわけではないようだ。
実際に経営者として経験しているのは、職員のこども・家族の発熱や介護需要などが発生した際に、それを補う人手がないことでこちらの現場も人手不足になってしまう事例である。また、それをカバーするために他の職員が出勤しようとしても、(コロナ禍の例外を除き)配偶者控除の所得制限などで出勤を控えざるを得ないこともある。
子育てと介護の社会化を同時に行うことで、少ない人材を適切に分配しつつ社会経済を回していくことが、古い制度の制約で不可能になってしまっている。女性を家庭に引き留めて子育てや介護をさせることが、出生率の上昇と経済の反映につながるという、男性社会の根拠のない幻想が、女性だけでなくすべての人の足枷となり、結果的にすべてが成り立たない社会を作り出している2)。
医療・介護や保育、教育のみならず、あらゆる分野で今後人手が足りなくなる日本社会において求められるのは、このような社会制度と文化の抜本的な改革を中心に、できることを組み合わせていくことだろう。ICTやAI、ロボットの活用や、外国人人材の積極的受け入れも重要であろう。日本で暮らす様々な背景や課題を持つ人が、同じように希望を持ちながら協働し、子育てや介護を行いながら希望をもって暮らせるようになることが、人材不足の問題の長期的な解決となると考える。
【文献】
1)MIT Technology Review:Humans and technology. January 09, 2023.
https://www.technologyreview.com/2023/01/09/1065135/japan-automating-eldercare-robots/
2)小倉和也:医事新報. 2022;5140:58.
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20559
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[人材不足][ロボット][女性]