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【識者の眼】「先延ばしにできない医療機関の再編、医師の偏在対策」栗谷義樹

No.5163 (2023年04月08日発行) P.54

栗谷義樹 (山形県酒田市病院機構理事長)

登録日: 2023-03-29

最終更新日: 2023-03-29

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日本の国・地方を合わせた債務残高のGDP比率は、世界主要国の中で突出しているが、その比率は2010年206%から21年257%へと10年余りの間に25%近く増加している。このままいけば中長期的にはどこかの時点で財政は必ず破綻することになる。一人当たり国民所得は今やOECDの平均以下、高度人材は流入より流出が懸念される状況で、製造業は収益性の高い海外へシフト、運用も含め国内から資金流出が止まらないという。

予算を巡る論議は財政支出ばかりが目立ち、効率化、生産性向上に向けた工程の議論が見えない。人口増加政策はきわめて重要だが眼前の危機には間に合わない。生産性向上、GDP増加、所得向上を目指すべきだが、わが国の生産性が低い最大の原因は企業数の99%、労働者の7割を雇用している中小企業と言われる。その半数以上がバブル崩壊後、赤字で税金を払っておらず、手厚い保護政策で倒産を免れているとされ、成長部門へのヒト、モノ、カネが動かない状況という。

この構図は、過疎化、少子高齢化が続く地方病院の状況とどこか近似している。

地域医療構想、三位一体改革の実現については、各地域の「調整会議を踏まえた自主的取り組み」を踏まえ……とされるが、過剰病床適正化と医療提供体制構築という2つの名目について、ガバナンス強化を促す国と、都道府県の認識の間にあるズレは解消されていない状態と思える。特に地域の医療機関再編に切り込もうとすれば、事案がすぐ政治問題化する現状では、道府県知事の指導力発揮はきわめて限定的と考えざるを得ない。

過疎化、高齢化が急速に進む地域で、機能分化、需要に応じた医療機関の適正配置を決められずに消耗戦を続け、個別に施設基準見直しやダウンサイジング、合意の曖昧な地域医療連携推進法人の設立をするだけでは、急速に進む需要縮小、今後の改定をクリアすることは不可能で、先送りコストも急増していくだろう。

2024年度から始まる医師の働き方改革も、現在のまま適用されれば大学から関連病院への医師派遣が困難となる可能性が高い。働き方改革は、医療機関の適正配置、医師の偏在対策とセットで進めることが必要で、このままでは地方の中小病院を中心に深刻な影響が及ぶ懸念がある。杞憂に終わることを願っている。

栗谷義樹(山形県酒田市病院機構理事長)[地方病院][地域医療構想][医師の働き方改革]

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