正確さについて批判もある死因統計をより充実させ,特に予防できる死の再発の防止等に資するためにも,解剖検査という手法が要求されるのだが,この点はどうなっているのだろうか。
表2で,2021年の都道府県別法医解剖数,および比較対象として2020年とコロナ発生前の2019年の法医解剖数を示す。全体としては,司法解剖と死因・身元調査法に基づく解剖(以下,調査法解剖)が若干増加したものの,その他の解剖(監察医解剖と承諾解剖)が大きく減ったため,総数では2年続いて減少となった。その大きな要因は,神奈川県と大阪府のその他の解剖の減少だろう。
神奈川県は,以前から元監察医の解剖を中心に減少傾向が続き,これはむしろ平均的な姿に近づきつつあるとも言えるが,大阪府の場合は,コロナの影響が色濃く現れている。監察医事務所から各監察医に対する連絡の中で,「可能な限り,検案で終了していただけると幸いです」という文言が含まれており(監察医事務所緊急事態宣言,R2.4.20~大阪府域の緊急事態宣言終了まで),医師のリスク軽減を考慮したものと言えるかもしれないが,監察医制度が公衆目的向上のためにあるという原点に立つと,解剖を忌避すべきであったか議論の余地があるだろう。
だが,一方では,2020年に比べると,2021年になってコロナ疑い,あるいは陽性のご遺体の解剖は確実に増加している。千葉大学,東京大学,国際医療福祉大学(以下,国福大)の3大学の法医学部門は協定を結び,業務の協同化と情報の共有を図っているが,ここでも,2021年に入ってコロナ事例の解剖が頻繁に行われている。PCR検査および抗原検査によって,コロナ陽性と判定されたご遺体の解剖および画像検査が,3大学合わせ30体行われた(2022年8月まで)。こうした解剖により,コロナウイルスによる死亡の機序,ウイルスの分布,どれくらい原死因に関与しているか,などが明らかになりつつある。他機関での法医解剖や病理解剖でも,一部ではあるが増加傾向がみられ,2020年の状況とは様変わりが見られる。
解剖数が増加した背景には,感染対策に対する理解が深まり,感染対策のための施設が整っている機関が積極的に解剖を実施したことがうかがわれる。たとえば,国福大は2017年に医学部が開設されたし,当初から感染症にも強い解剖室が整備されたことにより,前述の3大学中最も多くコロナ事案の解剖を実施している。それに伴って,学会発表などの場で,各施設の対応や症例の紹介が増加し,コロナに対する法医学的知見は蓄積されつつあるものの,研究に関しては海外での成果を上回るような実績は現れず,それらを追認しているにすぎない。また,全体の解剖数はコロナの感染拡大防止に資するには程遠い。
一方,病理解剖については,ここ数年1万体強で微減していたものの,2020年は一挙に7717体に減り(日本病理剖検輯報),コロナの影響が示唆される。
本稿では,それらの中から,ご遺体からの感染の可能性とワクチンの副反応による死亡の可能性という2点について,解剖や研究の実情やそれらに関する議論を紹介する。