株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

交通事故で入院中の高齢者の誤嚥性肺炎[〈今日使える〉死亡診断書・死体検案書の書き方・考え方〜当直・在宅・事故(5)]

No.5277 (2025年06月14日発行) P.34

久保真一 (福岡大学名誉教授)

登録日: 2025-06-15

最終更新日: 2025-06-11

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【症例】

80歳,女性。現病歴はアルツハイマー病,糖尿病。本日,横断歩道を歩行中,右折車両に跳ねられた。搬送先の救急病院で,後頭部打撲,多発性脳挫傷,左急性硬膜下血腫,意識障害を認めた。保存的治療となり,遷延性意識障害を認めたが,徐々に意識障害は改善してきた。事故1週間後から誤嚥性肺炎を繰り返すようになり,約3週間後に誤嚥性肺炎で死亡した。

ポイント① 死亡の原因と死因の種類

誤嚥性肺炎は,本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥),そのために生じる肺炎です。誤嚥する物は食物とは限らず,口腔内の細菌,逆流した胃液等も原因となります。本例の場合,交通事故による頭部外傷で意識障害が続いたことが,誤嚥の原因と考えられます。したがって,「死亡の原因」は頭部外傷で,「死因の種類」は「不慮の外因死」の「2 交通事故」となります。

ポイント② 死亡診断書か死体検案書か,異状死体の届出の要否

診療継続中の死亡ですので,「死亡診断書」となります。また,「死因の種類」が「不慮の外因死」の「2 交通事故」であることから,所轄警察署へ異状死体の届出が必要となります。

ポイント③ 外因死の追加事項

「死亡診断書」の作成にあたっては,交通事故の概要を「外因死の追加事項」に記載して下さい。たとえば,「救急隊員によると,横断歩道を歩行中,右折車両に跳ねられ,後頭部打撲,多発性脳挫傷,左急性硬膜下血腫,急性意識障害を認めた」のような記載が考えられます。

ポイント④ 長期療養により転院している場合

さて,本例は,受傷約3週間後に死亡しており,死亡と交通事故との因果関係は明らかと考えます。

しかし,長期に療養している場合,因果関係の判断が重要となります。交通事故での外傷で重症外傷の場合,「高度急性期」または「急性期」医療機関(病床)に搬送されます。状態が安定化した患者は,在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する「回復期」病床に,さらには,「慢性期」病床へと転院することになります。

「慢性期」病床で死亡した場合,複数の医療機関を転院していることから,当初の交通事故と「誤嚥性肺炎」の医学的因果関係の十分な検討がなされず,直接死因を原死因と考え,「死因の種類」を「1 病死及び自然死」として扱われていることがあります。こうなると「交通事故」とはまったく関係のない「病死」で死亡したことになります。

本例がもし事故8カ月後に死亡した場合ならばどうでしょう。たとえば,意識障害が徐々に改善し,事故5週間後にリハビリのため転院。運動機能は保持されるが,注意・記憶・遂行能力障害が顕著となり,高次脳機能障害と診断される。その後も,病識欠如,徘徊,暴言・暴力行為,食事拒否,リハビリ拒否と,高次脳機能障害が悪化。2カ月後,糖尿病が悪化し,血糖検査も拒否するようになった。食事も摂れなくなり,経管栄養となった。5カ月後から誤嚥性肺炎を繰り返すようになり,死亡の約2週間前に発症した誤嚥性肺炎で,事故8カ月後に死亡した,とします。

現病歴としてアルツハイマー病があったものの,交通事故で多発性脳挫傷,左急性硬膜下血腫を受傷したことが,高次脳機能障害に陥った原因と考えられます。したがって,「交通事故」を原死因として,直接死因である「誤嚥性肺炎」までを階層的に死因欄に記載することになります。「死因の種類」は「不慮の外因死」の「2 交通事故」となります。

しかし,いったん回復して,高次脳機能障害も安定した後に誤嚥性肺炎で死亡した場合には,交通事故と誤嚥性肺炎の因果関係が明確でない場合もあります。このような場合は,慎重に医学的因果関係を検討し,「死因の種類」を「1 病死及び自然死」とする場合も考えられます。

※実際の記入にあたっては,本回とあわせて連載第1回の記事を参考に記載して下さい。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top