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【識者の眼】「オオカミ少年のレガシー」関なおみ

No.5172 (2023年06月10日発行) P.62

関なおみ (東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)

登録日: 2023-05-30

最終更新日: 2023-05-30

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厚生労働省の事務連絡「季節性インフルエンザとの同時流行を踏まえた対策」1)2)が2022年10月に発出されたのは、この年の春にオーストラリアをはじめとした南半球でインフルエンザが流行したから、というわけではない。実はCOVID-19が発生した2020年以降、インフルエンザのサーベイランスが始まる9月に、毎年これと同様の事務連絡が発出されていた3)のであるが、この2年間はインフルエンザがほとんど流行しなかったため、「オオカミ少年」のように扱われていたのだった。

とはいえこのオオカミ少年のおかげで、COVID-19対策については、2020年には「診療・検査医療機関(発熱外来)」「受診・相談センター(発熱相談センター)」が誕生し3)、各種補助金が創設され4)、発熱患者の検査や診療に対応する医療機関の整備が進んだ。また、2021年にはコロナワクチンの3回目接種が進み、2022年には抗原定性検査キットのOCT化による自己検査1)や、発熱患者に対するオンライン診療が進んだのである2)

一方のインフルエンザ対策はどうだったのか。予防接種法のB類疾病に位置づけられる高齢者のインフルエンザワクチン接種について、東京都は2020年と22年に市区町村への自己負担分助成を行い、実質無償化した。任意接種となっている小児のインフルエンザワクチン接種についても、補助を始める自治体が増えた。

筆者が勤務する区でも、同時流行に備える形で高齢者や小児のインフルエンザワクチン接種費用の助成事業を実施したが、接種率を2020・21・22年度で比較すると、高齢者では62%、54%、58%、小児では57%、42%、38%となっていた。

もちろん2020年時点には新型コロナワクチンがなく、頼れるものはインフルエンザワクチンしかなかったという状況も背景にあったかとは思うが、2022年度は20年度と同等の補助を行い、さらに、実際にインフルエンザとCOVID-19の同時流行が生じ、周知啓発にも力を入れたにもかかわらず、である。つまりオオカミ少年の叫びは、イソップ童話通り、継続した効果は期待できないということなのかもしれない。

そして今や、CM効果で人々の関心は帯状疱疹ワクチンへと移っている。

必要な行動をとっていただくために、必要な情報を伝えることの難しさを実感する。

【文献】

1)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部:事務連絡「季節性インフルエンザとの同時流行を想定した新型コロナウイルス感染症の検査体制の強化について(依頼)」.(2022年10月17日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001002075.pdf

2)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部, 他:事務連絡「季節性インフルエンザとの同時流行を想定した新型コロナウイルス感染症に対応する外来医療体制等の整備について(依頼)」.(2022年10月17日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001002068.pdf

3)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部:事務連絡「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」.(2020年9月4日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000667888.pdf

4)厚生労働事務次官:厚生労働省発健0915第8号「令和2年度インフルエンザ流行期における発熱外来診療体制確保支援補助金(インフルエンザ流行期に備えた発熱患者の外来診療・検査体制確保事業)の交付について」.(2020年9月15日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000672635.pdf

関なおみ(東京都特別区保健所感染症対策課長、医師)[予防接種][コロナとインフルの同時流行]

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