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【識者の眼】「診療科の選択 医学生へのアドバイス」杉村和朗

No.5174 (2023年06月24日発行) P.57

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-06-08

最終更新日: 2023-06-08

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1977年に大学を卒業して放射線科に入局した。胸部写真1枚で、疾患から病期まで滔々と述べられる先生に魅せられて,早くから放射線科に行こうと決めていた。CTが世に出た頃で、画期的な画像診断技術だとして大きな話題になっていた。

当時は卒業後すぐに入局していたため、ベッドサイドラーニングで各診療科を回ると、あの手この手で勧誘を受けた。CTという機械がまもなく普及する。CTを受ければ誰でもすぐに正確な診断ができるから、放射線科は不要になる。そんな将来性のないところを選択するなと、半ば本気で説得された。きっかけは格好いい先生に憧れただけで、深い考えもなく選んだ診療科だったので、そのまま放射線科に進んだ。

CTやMRIの出現、PETやIVRの進歩、放射線治療の発展は診療に大きなインパクトを与え、放射線科は花形診療科の1つとなっていった。

医学や科学の進歩、疾病構造の変化によって診療科の将来を見通すことは極めて難しい。今回のコロナ禍で、感染症や公衆衛生の重要性を痛感させられた。5年後、10年後を見据えて医療を考えていくのが医療行政であり、大学の指導者であるが、予測することは極めて難しい。

以前、ChatGPT〔生成型AI(artificial intelligence)〕をはじめとするAIの進歩によって、診療科がどのようになってくるのかについて少し意見を述べた(No.5168)。最近の医療関係の雑誌を見ると、AIの進歩によって、放射線科と病理は消滅するという論調を見かける。私自身が大学在職時にコンピュータ支援診断に関わっていた経験から考えると、専門医の診断レベルに追いつくまでには暫く時間が必要である。AIを敵視するのではなく、倫理面に配慮しながら利用していく必要がある。

薬局や検査室に閉じこもって行ってきた業務の多くは、コンピュータが担ってくれる時代になりつつある。このため薬剤師、臨床検査技師、管理栄養士等々は、病棟・外来で患者に接しながら医療に貢献していく方向にシフトしている。放射線診断医、病理医も患者に寄りそって、生の患者情報を得ていく努力が必要である。コンピュータでは望めない、臨床に即した診断、治療方針を下して医療に貢献できなければ、専門医としての存在価値がなくなってしまう。いまは大きな転換点である。

コンピュータが優れていることはコンピュータに任せる見極めが大切で、その余裕をより人間らしい知的活動に使う知恵を養いたい。中世、散歩は貴族の特権だったが、産業革命後、時間に余裕ができた中産階級に広がり、登山やトレッキング、そして旅行文化へと広がっていった。若い学生、研修医には、目先の損得で診療科を選ぶようなことは考えずに、好きな道を選ぶようにとアドバイスしている。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[AI技術の進歩][将来の予測]

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