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【識者の眼】「クランベリーは尿路感染症予防に効果はあるのか?」大野 智

No.5177 (2023年07月15日発行) P.63

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2023-07-04

最終更新日: 2023-07-04

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筆者は厚生労働省事業の一環で、補完代替医療分野に関するCochrane Reviewの平易な要約(plain language summary:PLS)の日本語翻訳に取り組んでいる1)。サプリメントや施術・療法の多くは、臨床試験の症例数が少ないなどの研究の限界点を指摘され、エビデンスの確実性は低いと結論づけられている。だが、複数のランダム化比較試験によるシステマティックレビューによって有効性が示唆されているものもある。

例えば、最近、クランベリーによる尿路感染症予防に関して検証した報告があった2)。クランベリーの有効性に関するシステマティックレビューは1998年に初めて報告され、その後、新たな臨床試験の結果を追加して再検証を重ね今回5回目の更新となっている。この報告では50件のランダム化比較試験(参加者合計:8857人)が検証対象となった。

主な結果は次の通りである。

  • 濃縮液や錠剤・カプセル状のクランベリーの摂取によって「再発性尿路感染症を患う女性〔相対危険度(relative risk:RR):0.74〕」「小児(RR:0.46)」「放射線治療など医学的介入によって尿路感染症になりやすい人(RR:0.47)」のリスクを軽減した。
  • 摂取量や摂取方法の違いによって尿路感染症のリスクに差はなく、最も効果的な摂取量・方法は特定できなかった。
  • 抗生物質と比較して、クランベリー製品の症候性尿路感染症に対する効果はほとんど差がなかった(ただし、確実性の低いエビデンス)。
  • プロバイオティクスと比較して、クランベリー製品の症候性尿路感染症に対する効果は大きかった(ただし、確実性の低いエビデンス)。
  • 「施設入所の高齢男女」「妊婦」「神経因性膀胱の成人」に対する効果は認められなかった。
  • 代表的な副作用として「胃もたれ」があるが、プラセボ群や無治療群と比較してほとんど差がなかった。

なぜ、クランベリーに効果があるのか? 論文の著者らは、仮説としてクランベリーに含まれるプロアントシアニジン(ポリフェノールの一種)に、膀胱壁への細菌付着抑制作用があるためと説明している。このメカニズムからすると、今回の報告は、標準的な尿路感染症予防の方法である十分な水分摂取(と適切な排尿)に取って代わるものではないと考えられる。

読者の中には「サプリメントは効かない」と決めつけている方がいるかもしれない。しかし、ランダム化比較試験やシステマティックレビューで、有効性が証明されているサプリメントがあることも、頭の片隅に留めておいて頂けると幸いである。


補足:筆者とクランベリー製造販売企業との間に公開すべき利益相反はない。

【文献】

1)厚生労働省「統合医療」情報発信サイト[eJIM]:コクラン・レビュー・サマリー.
https://www.ejim.ncgg.go.jp/doc/index_cochrane.html

2)Williams G, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2023;4(4):CD001321.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37068952/

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法

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