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【識者の眼】「近年発見された新規ウイルス感染症等の世界規模流行と今後の備え」西條政幸

No.5177 (2023年07月15日発行) P.59

西條政幸 (札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)

登録日: 2023-07-04

最終更新日: 2023-07-04

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2013年1月に重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)と呼ばれる新規ウイルス感染症患者が日本で確認されたことを発表した1)。それからちょうど10年後にあたる23年6月23日付で国立感染症研究所(感染研)から新規ウイルス(OZウイルス)による死亡例の報告がなされた2)。世界初のOZウイルス感染患者の報告である。

OZウイルスはオルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に分類される、6分節からなるRNA遺伝子をウイルスゲノムとするウイルスである。当該患者にはダニに咬まれた痕が残っていたことから、ダニに咬まれて感染した可能性が高い。元々OZウイルスは愛媛県で採取されたタカサゴキララマダニから分離同定されていたウイルスである。

20年に北海道札幌市でダニ媒介性の新規ウイルス(エゾウイルス)感染症患者が世界で初めて報告された3)。北海道ではエゾウイルス感染症の発見に先立って、1993年にフラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるダニ媒介脳炎ウイルス(TBEV)による脳炎患者の報告が日本(北海道)で初めて確認されている。日本で流行するダニ媒介性ウイルス感染症は上記の4種類である。この10年間に3種類の新規ウイルス感染症が確認されたことになる。

世界規模で発生している新興・再興ウイルス感染症に目を転じると、この10年間に予想もされていなかった事態が発生している。その中で最たる感染症が19年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)であるが、その他にもジカウイルス感染症の世界的流行、14〜15年まで西アフリカで流行したエボラウイルス病の大規模流行、そして、22年に世界規模で流行したエムポックスウイルス感染症(ヒトサル痘)流行がある4)

私はこれまで上記のウイルス感染症の研究を行ってきた。私がエボラウイルス病、ジカウイルス感染症、エムポックスウイルス感染症の大規模流行を予想外であったと評することは、結果的に専門家として、まだまだ未熟であることを意味する。今後日本が備えるべき感染症流行への重要な対策のひとつは、もちろん簡単なことではないと思うが、次なる流行、既存の感染症の再流行を含めた、いわゆる“Disease X”の病原体を予測し、それへの実践的な方策を研究し、備えることではないかと考えている。

【文献】

1)西條政幸, 他:IASR. 2013;34:40-1.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrd/3142-pr3963.html

2)峰宗太郎, 他:IASR. 2023;(速報)6/23.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/ozv/2630-idsc/iasr-news/12108-521p01.html

3)児玉文宏, 他: IASR. 2020;41:11-3.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/arthlopod/1774-idsc/iasr-in/9354-479d01.html

4)西條政幸:医事新報. 2022;5139:55.
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20495

西條政幸(札幌市保健福祉局・医務・健康衛生担当局長、国立感染症研究所名誉所員)[OZウイルス][COVID-19][Disease X]

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