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【識者の眼】「医師の真髄」野村幸世

No.5178 (2023年07月22日発行) P.59

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2023-07-05

最終更新日: 2023-07-05

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先日、「外科医の真髄」について語る機会を得た。与えて頂いたお題なので、お題を見てから何を語ろうか、また、外科医の真髄とは何かを考えた。外科医というからには、上手で合併症のない手術を行うことが真髄であろうか。

私は、以前にもお話ししたことがあったかもしれないが、外科の教室に属していると同時に、勤務先病院の「がん相談支援センター」というところのセンター長も10年以上務めている。

がん相談支援センターとは、がん診療連携拠点病院という各地域で中心となってがん診療を行っている病院として、厚生労働省の認定を受けた病院に設置が義務付けられている、がんの患者さんとその家族が無料で相談できる部署である。セカンドオピニオンの受け方、がん関連の受けられる支援の案内、臨床試験の案内、就労支援相談案内、主治医とのコミュニケーションの相談、金銭的相談、と多岐にわたる相談を、自分の病院の患者さん以外からも受け付けている相談部署である。

がん相談支援センターが行わなければならない業務は、厚生労働省からのお達しにより増加傾向にあり、その重要性は増している。ただ、無料相談であるゆえ病院内では非採算部門であり、どうも冷遇されている傾向にはある。

ひとまずそれはいいとして、ここで受ける相談のすべてに目を通していると、主治医とのコミュニケーションで不満のある患者さんが結構多いことに気づく。当院では、苦情は「患者相談」という別の部署があり、がん相談支援センターは苦情を言うための場所ではない。それでも、主治医の説明不足に話題がいってしまうことがかなりある。

外科医は進歩的な技術や、高度な技術、新しい術式、精密な手術、執刀数の多さなどにより、自信を高め、自己評価を上げている人も多い。確かに、下手よりは上手のほうがよかろう。しかし、それが患者さんの最も望むものなのかをよく考える必要がある。患者さんが最も望むものは、主治医との信頼関係、安心感、何でも聞ける人間関係である。極論すれば、どちらをとるか、と言われれば、技術の高さよりも信頼関係であると思う。高度で治る医療をしたとしても、受け手が満足していなければ、いい医師とはいえない。ぜひ、いい医師をめざしたい、と同時に、患者さんの満足度を測るシステム、さらには、それが医師への評価にもつながるようなシステムがあるといいと思う。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[がん相談支援センター][医師と患者の信頼関係]

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