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近未来の「高度先進地域医療」をめざして:江別市立病院の挑戦[エッセイ]

No.5181 (2023年08月12日発行) P.66

長谷部直幸 (江別市立病院病院事業管理者(CEO)/ 旭川医科大学名誉教授)

登録日: 2023-08-13

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はじめに

先進のデジタル要素と究極のアナログ要素を併せ持つ、近未来のハイブリッド医療としての「高度先進地域医療」の考え方については、本誌1)に概説させて頂きました。これは単なる夢物語ではなく、近未来の地域医療のひとつの理想形であると信じております。そこで、緒に就いたばかりですが、江別市立病院での実践の記録をご紹介したいと思います。

経営再建まっただ中の江別市立病院

札幌市の北に位置する江別市の江別市立病院は、内科医師の総辞職(平成18年)や総合診療内科医師の大量退職(平成28年)などで、過去に幾度か全国的に話題になった病院です。現在は経営再建計画のまっただ中にあります。令和4年4月から地方公営企業法の全部適用に移行し、初代病院事業管理者として私が着任しました。

この1年間「元気が出る組織づくり」の合い言葉に呼応する意欲溢れた職員に恵まれ、様々な改革プロジェクトを実行しながら、117億円の累積赤字の解消に成功し、経営再建は着実に進んでいます。収支の改善、収益の増加は無論重要な目標ですが、めざすべき医療を見失っては本末転倒です。深刻な内科医不足の中でも江別市唯一の公立病院として、コロナ禍対応をはじめ政策医療の責務を果たしつつ、通常診療を維持するために全職員の力が結集されています。しかし、それだけでは単なる現状維持にすぎません。近未来の医療として、私達でなければ成しえない医療をめざそう、と呼び掛けています。それが「高度先進地域医療」です。

「高度先進地域医療」への挑戦

当病院の経営再建を進めるにあたり、市職員の給与削減を原資とする基金が託されました。大変重い浄財であるこの資金を「未来医療創造基金」と名づけ、有効活用の方策の「未来のタネ」を全職員から募集しました。様々なプロジェクトが提案・実行されましたが、医師確保と医療の充実が大きな課題でした。一朝一夕には達成できないこの課題の突破口は、めざすべき医療の形として「高度先進地域医療」を提示することでした。

幸い、従来ご支援頂く各医育大学のご理解とご協力のもと、令和5年4月から先進医療の共同研究を担う2つの特設講座を開設できました。

1つは、北海道大学呼吸器内科学講座(今野哲教授)と呼吸器・循環器疾患の未病状態での早期検出や、ウェアラブルデバイスの開発をめざす「呼吸・循環未来医療創発講座」です。画像診断・生理機能診断のみならず、新規バイオマーカーや新たなモニタリングシステムの構築に向けて、地元のベンチャー企業にも参画頂いて始動しています。

さらに、札幌医科大学消化器内科学講座(仲瀬裕志教授)と消化器内視鏡によるデジタル遠隔医療のモデル構築をめざす「消化器先端内視鏡学講座」が始動しました。令和4年度「冬のDigi田甲子園」で仲瀬教授が内閣総理大臣表彰を受けた内視鏡デジタル遠隔診療構想の実装と、内視鏡医師・技術の育成、消化器疾患の新規治療法の開発をめざすものです。

新年度から、これらの講座に所属する先生達が当院で臨床研究活動を開始しています。

さらに、近隣の当別町・南幌町・新篠津村の各町村と協定を結び「江別・南空知先端医療推進協議会」を結成しました。この協議会を軸として、我々が抱える16万人の医療圏を網羅して「高度先進地域医療」を展開する基盤が構築されています。

当病院では内科医不足のため、私も内科・循環器内科の診療を担当しています。初期臨床研修医も受け入れており、コロナ禍で制約がある中、大学以来私が実践してきた全身を診る理学所見の取り方と、患者さんの話を聞き患者さんのわかる言葉で納得してもらえるまで説明を尽くす、という究極のアナログ診療に付き合ってもらっております。大学時代の私のトレードマークである10人同時指導できるワイヤレス聴診器は装備していませんが、より個別に、聴診はじめ診察技術を指導しています。手前味噌ですが、研修医からの評判は上々で、外来患者さんに「こんなに丁寧に診て、こんなに詳しく説明してもらって、本当にありがとうございます」と感謝して頂き、受診したことに納得して帰って頂く体験を共有できるのは意義あることと思います。

院内のアナログ姿勢を尊重する風土の醸成を期待して、今年の年頭訓示では2つの運動を提案しました。まず「おはようとありがとうの響き合う病院をめざそう」という運動は、挨拶を徹底し、院内コミュニケーションを活性化するものです。

2つ目は「一人ひとりが想像力を磨き、自らの行動で最高の病院をめざそう」という運動です。具体的には、「患者さんが困っている」「ご家族が怒っている」など様々な場面で、職員一人ひとりが、まずは自分が病院を代表しているとの意識を強く持ちながら、自分の一言で、あるいは自分の対応で「江別市立病院を最高の病院と言わせてみせる」という気概を持って対応しよう、という運動です。掛け声のみに終わらぬよう、実践に秀でた職員を表彰して、皆で見習う習慣を呼び掛けています。

医師不足という困難な状況ですが、皆で少しの工夫と思いやりを持ち寄れば、必ずや乗り越えられると信じています。アナログの精神は信じる力に支えられるものでもあります。

おわりに

緒に就いたばかりで未完成ですが、高度のデジタル技術と究極のアナログ技術のハイブリッド医療である「高度先進地域医療」を、当病院でなければ成しえない医療として、あるいは全国に先駆けて当病院がめざす医療として育てていくことができれば、と願っています。

【文献】

1) 長谷部直幸:医事新報. 2023;5164:66-7.

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