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【識者の眼】「医療事故調査制度の本来意味するところを再確認」小田原良治

No.5189 (2023年10月07日発行) P.60

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-09-06

最終更新日: 2023-09-06

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本年8月27日、鹿児島市において、鹿児島県医療法人協会主催の講演会「医療事故調査制度を再確認する─歴史の証人と行政との対話─」を開催した。坂根みち子氏、佐藤一樹氏の講演に引き続き、梅木和宣前厚生労働省医療安全推進・医務指導室長、井上清成弁護士と私の3人で、鼎談形式で医療事故調査制度の本来意味するところを再確認した。

内容は、これまで、数度にわたり本誌1)〜5)でも述べてきたものであるが、鼎談の中で、医療事故調査制度にいう『医療事故』の「誤った理解」と「正しい理解」を対比させながら、医療事故調査制度の本来の意味を再確認できた。それは大きくわけて次の6項目である。

①「責任追及」はあくまでも「医療過誤」に対してなされるべきであって、「医療安全」を追求している『医療事故』として取り扱ってはならない。医療事故調査制度は、「医療の内」(医療安全)と「医療の外」(責任追及)を切りわけることによってできあがったものである。「医療事故調査制度」の名称変更を求める意見は、「医療過誤」と医療安全の制度としての『医療事故』の相違を理解できていない人々から出てくる意見である。

②この制度でセンターに報告すべきは『医療事故』であって、『医療事故疑い』は含まれない。「医療事故の疑い」すなわち『医療事故』であるということではなく、「医療に起因すると疑われる死亡又は死産」が『医療事故』となりうるということである。

③「医療に起因する死亡」要件と「予期しなかった死亡」要件は、両者並列に該当性を検討しなければならない。この両要件に該当したものが本制度の『医療事故』である。

④『医療事故』の報告件数は決して少なくはない。これは、当時の塩崎恭久厚生労働大臣が適切に答弁している。

⑤「※過誤の有無は問わない」の本来の意味は、「医療過誤の有無は問わず、『医療事故』の有無は独立に定められている」ということである。「医療過誤」かどうかと『医療事故』かどうかは、まったく個々別々に決められることである。

⑥はなはだしい誤りは、「予期」を「予見」と読み替えてしまうことである。「予見」は「医療過誤」すなわち「過失」の局面の用語であり、「責任追及」と直結するものである。他方、「予期」は『医療事故』の局面において出てきた用語であり、専らの「医療安全」と直結したものである。

今回、厚労省担当者との間で本来の医療事故調査制度の意味するところを再確認できた。これで『医療事故』についての理解が正しい方向に戻るものと考えている。

【文献】

1)〜5)医事新報. No.5159, No.5166, No.5170, No.5175, No.5183.

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[誤った認識と正しい認識の対比

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