こんにちは、山下です。今年のお彼岸は、たくさんおはぎを食べました。
さて今回は、No.5186で構想(空想?)した、マイナンバーの活用による「権利の自動化」について、法的な観点からメリットを考えてみたいと思います。No.5186と同じく、現時点では架空の話ですので、ご注意頂ければ幸いです。
まず、利用者側のメリットについては、法的権利があるのに、それを知らないために使えない、という状況を避けられます。法的な権利は、行使をしないまま一定期間を経過すると、時効によって消滅します。利用者にとって、このような事態を避けられるのは大きなメリットです。
社会保障の権利を必要とする局面では、利用者が生活上追い込まれている場合が多くみられます。そのときに、複雑な制度を自分で読み解いて、権利を使いこなすことは難しいと思います。その意味で、権利の自動化は、利用者にとって非常に助けになるのではないでしょうか。
次に、行政のメリットは、大きくは2点あると思います。
第1に、利用者への説明にかかるコストが削減できます。複雑な社会保障のしくみをすみずみまで理解するのは、行政の職員でも困難です。それを行政の窓口に来た利用者にわかりやすく伝えることは、なおいっそう難しいと思います。権利の自動化が採用されれば、そのような大変な説明をしなくてすみます。そうすれば、窓口の人員を減らして、別の業務に配置転換することにもつなげられるかもしれません。
第2に、訴訟リスクを避けることができます。現状では、適切な制度説明をしなかった場合、説明義務違反によって、行政は損害賠償訴訟を提起される恐れがあります。権利の自動化が達成されれば、説明義務違反という事態がそもそも起こりません。
そして、上記のような行政の2つのメリットは、医療法人など、医療・介護の提供機関にも当てはまります。そうすれば、No.5164のように、説明義務違反によって社会保障給付の事実上の「肩代わり」を医療法人が負うという事態も、避けられることになります。
以上のように、誰にとってもメリットがあるようにも感じられますが、いかがでしょうか。
次回は、逆に、権利の自動化のデメリットを、法的観点から考えてみたいと思います。
山下慎一(福岡大学法学部教授)[社会保障][マイナンバー][申請主義を超えて][権利の自動化][情報提供義務]