1 認知症患者における疼痛管理の課題
(1)痛みの程度や痛みそのものを患者は認識しているか
・認知症患者は疼痛の感受性が変化している可能性がある。
・重度の認知症患者では,疼痛を疼痛として認識することが困難な場合もある。
(2)痛みがあることを表現できているか
・言語化が難しいことから,疼痛の部位や程度,場合によっては疼痛の存在自体を申告するのが困難となっていることがある。
2 認知症患者における疼痛の感受性
(1)アルツハイマー型認知症(AD)患者の疼痛の感受性
・認知機能障害が重度の場合,痛み刺激を痛みとして認識できない可能性がある。
(2)血管性認知症(VaD)患者の疼痛の感受性
・VaD患者では,痛みによる苦痛や不快感といった感情的要素が健常高齢者より強い可能性が示唆されている。
3 認知症患者における疼痛評価
(1)認知機能障害が軽度の場合
・自己申告による疼痛の評価が有用で,視覚的アナログスケール(VAS)や数値評価スケール(NRS),表情評価スケール(FRS)などが用いられる。
(2)認知機能障害が中等度以上の場合
・表情,発声,体の動き,対人行動の変化,日常生活の変化,精神状態の変化などを客観的に評価する必要がある。
(3)認知症を伴う高齢者を対象とした疼痛の客観的評価スケール
・日本版アビー痛みスケールやDOLOPLUS-2などがある。
4 認知症患者における疼痛の治療
(1)非薬物治療
・まず非薬物的介入を検討する。疼痛体験には心理的要素が大きいため,患者の不安を解消させるような心理的介入を行う。
・音楽療法,リフレクソロジー,認知行動療法が有効,とした報告がある。
(2)薬物治療
・薬物治療の注意点:①加齢による薬物動態や薬力学的な変化を考慮する,②併存疾患や併用薬による薬物相互作用を考慮する,③低用量から開始し,必要に応じて副作用に注意しながらゆっくりと増量する。
・投与方法:最も侵襲の少ない方法で行うべき。
・投与のタイミング:激しい発作的な痛みに対しては,即効性のある短時間作用型の鎮痛薬を使用すべき。適切に薬を要求することができないような認知症患者では,頓用は好ましくない。
・薬物選択:非オピオイド製剤は持続性の痛み(特に筋骨格系の痛み)の初期治療に,継続治療にはアセトアミノフェンを第一に選択する。
伝えたいこと…
認知症患者は,疼痛の感受性や認識・認知,それを伝える機能が障害されていることから,疼痛への適切な対処がなされていない場合が多い。疼痛はBPSDにも影響を及ぼすため,認知症診療において重要な治療ターゲットであり,見逃さないように丁寧に患者を観察する。