炭疽は,芽胞形成性の大型のグラム陽性桿菌である炭疽菌(Bacillus anthracis)による急性感染症である。炭疽菌は通常は土壌に生息しており,世界各地に高濃度の汚染地域がある。通常は汚染地域の土壌に存在し,野生動物や家畜が感染して死亡する。病畜の毛や皮革の加工作業の際に芽胞に接触したり(皮膚炭疽),吸入したり(肺炭疽)することで感染する。海外では病畜肉の喫食での腸炭疽の発症や,注射の回し打ちに関連した注入炭疽もある。日本では1994年の2例(宮城県と東京都)の発生以降は報告されていない。2001年に米国で生物テロとして使用されたことがあり,警戒すべき疾患である。感染症法の4類感染症に指定されているが,迅速に対応する必要から,疑いの段階で保健所に通報する必要がある。
皮膚炭疽は2~3日の潜伏期の後,かゆみを伴う水疱が形成され,しだいに炭のような黒色の無痛性の皮膚病変(eschar)を形成する。これに二次感染が起こると,化膿,疼痛,発熱,所属リンパ節の腫脹が出現するようになり,やがて全身感染へと移行する。無治療の場合の皮膚炭疽の致死率は5~20%程度と言われている。
肺炭疽は1~7日の潜伏期後に,軽度の発熱,から咳,全身倦怠感,筋肉痛等を訴える。数日すると突然の呼吸困難,喘鳴,発汗,チアノーゼ,ショックを呈するようになる。胸部X線では,縦隔の拡大が特徴的である。この段階に達すると,通常,24時間以内に死亡する。
腸炭疽は2~5日の潜伏期後に悪心・嘔吐,食欲不振により発症した後,発熱,腹痛,吐血,下痢(時に血性下痢)が出現し,ショック,チアノーゼを呈して死亡する。腸炭疽の致死率は20~60%とされる。腸病変部は回腸下部および盲腸に多い。
肺炭疽と腸炭疽では髄膜炎を伴うことが多い。
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