10月のストックホルムは、ノーベル賞受賞者の発表から始まりました。と言っても、街中で何か特別なことがあるわけでもなく、少なくとも私の周囲では、日本人コミュニティの間でわずかに、今年は日本人が受賞するだろうか、という会話が交わされる程度でした。そして、残念ながら日本人の受賞者はいないことがわかると、早々にノーベル賞の話題はなくなってしまいました。
街が盛り上がるのは、授賞式が開催される12月のようです。個人的には、経済学賞が、男女の賃金格差の要因を明らかにしたクラウディア・ゴールディン氏に授与されることに、心を動かされました。日本経済新聞の解説によると、ゴールディン氏は、子どもの誕生が男女の賃金格差の主要因であり、「長時間いつでも働くことが優遇される職場でこの傾向は強くなる」ことを明らかにしました1)。長時間労働が常態化している日本の医師にも、当てはまる傾向ではないでしょうか。ゴールディン氏の受賞が、世界の(特に日本の)女性の労働環境の改善につながればと思います。
さてノーベル賞受賞者が静かに発表される中、街は着々と冬へと向かっています。問題は寒さではなくて日照時間の短さだと、こちらに長く住む人は声をそろえて言います。気温だけ見てみれば、ストックホルムの最低気温がマイナス10度を下回ることはほぼないようです。しかし日照時間は極端に短くなり、ストックホルムでは、最も短い11月には1日平均35分を記録した年もあったとか。そんな冬はスウェーデン人にとっても辛い季節で、冬の鬱はもはや国民病という人までいます2)。
様々な予防策が推奨されていますが、中でも目新しかったのは「ビタミンDを摂取せよ」というものです。錠剤が、薬局だけでなく量販店にも置かれていることからも、ごく一般的予防法であることが垣間見えます。わが家でも、薬剤師の指南を受けて、大人用の濃い錠剤と子ども用のグミをそろえ、日々せっせと摂取しています。「9月から飲んでいる」と言うと、「早すぎる!」と笑う人もいましたが、カロリンスカ研究所の同僚で、ウイグル自治区出身の生理学者は「それでいい!」と唯一太鼓判を押してくれました。彼女もストックホルムに来て1年目の冬は、初めての精神状態に戸惑ったそうです。それに加えて、日本人研究者からは「留学3カ月目は気をつけて!」という助言も頂いています。ストックホルムで一番暗い11月に留学3カ月目を迎えるのですが、この試練、乗り越えられるでしょうか。乞うご期待です。
【参考】
1)日本経済新聞:社説.(2023年10月14日).
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1245I0S3A011C2000000/
2)カロリンスカ研究所では、留学生向けにこんな情報も提供されています。
"Tips on how to cope with the Swedish winter darkness”.
https://education.ki.se/tips-on-how-to-cope-with-the-swedish-winter-darkness
渡部麻衣子(自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)[クラウディア・ゴールディン][スウェーデンの冬]