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【識者の眼】「社会的処方の新しい定義」西 智弘

No.5199 (2023年12月16日発行) P.65

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2023-12-05

最終更新日: 2023-12-05

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社会的孤立が人の死亡や認知症の悪化リスクを高め、公衆衛生上の大きな課題であることが明らかとなっている中で、「薬で人を健康にするのではなく、人と社会資源とのつながりを利用して人を元気にする仕組み」である「社会的処方」は、その発祥の地であるイギリスのみならず、世界中で注目されている。

2022年の時点で、全世界17カ国(オーストラリア、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイルランド、日本、オランダ、ニュージーランド、ポルトガル、シンガポール、韓国、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ)において社会的処方の取り組みが存在すると報告された。それ以来、社会的処方はオーストリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、チェコ共和国、エクアドル、台湾などにも広がっており、その取り組みは現在20カ国以上に拡大している。

また、2020年にはNew England Journal of Medicineに「これは文化を変えるチャレンジである」として社会的処方が紹介され、WHOでも社会的処方を実践するためのツールキットが発表された。

さらに、これまで社会的処方とは「主に医療者が、診察室に来た患者の孤独孤立に対し処方するもの」として扱われることが多かったが、2023年に発表された新たな社会的処方の定義では、「医療以外の健康関連の社会的ニーズを持っている人がいた場合に、臨床現場や地域社会で活動する人がその方の課題を特定し、健康やウェルビーイング、そして地域とのつながりを向上させる目的で、その方を地域社会内の非臨床サポートやサービスに結びつけるための手段を共同で作っていくこと」とされた。

以前のように医療者が中心となって社会的処方を行っていくという流れから、まちの中で「おせっかいを焼きながら」活動する住民=市民リンクワーカーが主体となって実践を行っていく方向へ変化してきている。

日本でも、2024年4月に孤独・孤立対策推進法が施行され、社会的処方への注目は今後益々高まるだろう。私たち医療者は、自分たちも「社会における孤独・孤立の問題が集まる窓口のひとつ」として役割を果たしながら、市民リンクワーカーと協働すべく、地域に対して門を開いていくことがより強く求められていくだろう。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[孤独・孤立][市民リンクワーカー]

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