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臓器移植の現場では[先生、ご存知ですか(70)]

No.5200 (2023年12月23日発行) P.67

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2023-12-20

最終更新日: 2023-12-15

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脳死と臓器移植

わが国では1997年に「臓器の移植に関する法律」が制定され、脳死下臓器移植が行われています。2023年11月には累計で1000例を超えました。2022年には106人の方が脳死状態で臓器を提供されたとのことです。

臓器移植が唯一の治療法という患者さんがいる限り、脳死状態の方からの臓器提供は必要な医療です。しかし、運用面では様々な課題が指摘されています。

事故や自殺例での対応

79年に制定された「角膜及び腎臓の移植に関する法律」は、心臓死下において、腎臓と眼球を摘出して腎臓や角膜移植をすることが法的に認められた法律です。その第4条では、「変死体あるいは変死の疑いがある死体から眼球又は腎臓を摘出してはならない」と規定されていました。

しかし、97年に「臓器の移植に関する法律」が施行され、同法では「刑事訴訟法第229条第1項の検視その他の犯罪捜査に関する手続きが行われるときは、当該手続きが終了した後でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならない」と記載されています。

すなわち、検視、その他の犯罪捜査に関する手続きが終了していれば、脳死下で臓器を摘出することができるようになったということです。附則の第2条では、「犯罪捜査に関する活動に支障を生ずることなく臓器の移植が円滑に実施されるよう努めるものとする」とも明記されています。

私たちが異状死と呼ぶような外因(転落、交通事故、自殺企図など)あるいはその後遺障害のなどの例でも、脳死下臓器移植が可能になったということです。

現場では

上記のような記載があるものの、現場での運用は困難です。現行法では、異状死において犯罪あるいはその疑いがある場合は司法解剖になります。あるいは、犯罪の疑いがない場合でも、死因を明らかにするために承諾解剖、行政解剖、調査法解剖が行われることがあります。このような例では、臓器移植を行うことは困難です。

我々は事故や自殺などで患者さんが脳死状態になり、家族が臓器提供の意思を表明している場合にどうすべきかについて検討してきました。専門家が脳死状態と判定できることは当然の前提条件です。さらに、事件性や不審な点がないこと、解剖せずに死体検案で死因が確定できることが、さらなる条件となりました。そして、これらについて透明性をもって判断することが要求されました。

滋賀県では、司法当局と話し合い、運用方法を決めました。

事故や自殺企図などで脳死状態になった方の家族が臓器提供を申し出られた場合、速やかに警察に連絡する。

警察が環境捜査などを行い、法医学の専門医がお体を観察する。

不審な点や事件性がないことを確認したうえで手続きを進める。

脳死判定後に法医学の専門医が死体検案を行い、死因を確定することで手続きを終了する。

このような取り決めによって、貴重な臓器提供が円滑に進んでいます。

臓器移植の現場では、亡くなった方やご家族の意思に報いるために様々な工夫が求められています。

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