吃音の原因として、神経原性、心因性、薬剤性などもあるが、ほとんどは2〜3歳に発症ピークがある発達性吃音であり、幼児期の累積発症率は約1割ある。双生児研究によると、発達性吃音の発症原因の8割程度が遺伝要因であり、複数の要因の足し算で発症が説明される1)。全ゲノム解析では、20前後の変異が吃音関連として抽出されている2)。これにより、発達性吃音が親の育て方や愛情不足によって発症することはなく、素因がなければ真似をしても吃音にはならないことが明らかになった。
親が子の発話の非流暢を気にして、それを指摘したり叱責したりすることで吃音が起きるという「吃音診断起因説」が20世紀後半にWendell Johnsonにより提唱された。しかし、彼が大学院生を指導して孤児院で行った実験は、非倫理的という意見を考慮して結果が公表されなかったが、データの再分析によると、当初の結論と異なり、吃音の素因がない子にいくら非流暢を指摘しても吃音は発症しなかった3)。ただし、発話に躊躇し、最小限しか発話しない習性が生涯残った。
残念ながらJohnsonの間違った説がわが国にも伝わり、子が吃(ども)っても親が気づかない振りをするのが良いという形で流布した。親が吃音を無視する態度を示すと、子は親に吃音の相談ができなくなり、心理的に孤立する。吃音をことさら話題にしたり注目させたりすることはしないが、子が話題にすればざっくばらんに応じるのがよい。
幼児期の吃音は8割程度が自然治癒するが、その機序は、発話を担う脳内の一部が不良であっても、他の機能が成長とともに発達して代償し、回復するものと思われる。自然治癒率が高いために、医療機関を受診しても様子見の指示のみ受けることも多いようであるが、自然治癒まで数年を要することも多く、また、小学校入学時にもなお1〜2%に吃音が残るので、保護者の心配や不安が強くなりがちであり、適切な情報提供と経過観察が望ましい。
幼児の吃音についての最新情報は、『幼児吃音臨床ガイドライン 2021』に記載されている。吃音の治療ができる施設は不足しているので、このガイドラインでは、吃音の治療をしていない医療施設にも、軽度症例のみを数カ月ごとに経過観察して頂き、それ以外は治療ができる施設に紹介するという地域ネットワークを提案している。家族等に配布できる説明資料も含め、本ガイドラインは自由にダウンロードできるので、活用して頂きたい。
【文献】
1)Rautakoski P, et al:J Fluency Disord. 2012;37(3): 202-10.
2)Polikowsky HG, et al:HGG Adv. 2022;3(1):100073.
3)Ambrose NG, et al:Amer J Speech Lang Pathol. 2002;11:190-203.
森 浩一(国立障害者リハビリテーションセンター顧問)[吃音(どもり)][吃音診断起因説][Monster study]