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【識者の眼】「大震災と子どもの発育」鳥居 俊

No.5207 (2024年02月10日発行) P.58

鳥居 俊 (早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授)

登録日: 2024-01-30

最終更新日: 2024-01-30

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今回より当欄に執筆することとなりました。専門領域はスポーツ医学と発育発達学ですので、これらの分野での話題を提供したいと考えています。

2024年は想像を絶する幕開けになってしまいました。被災された方々、現在も避難生活中の皆様にお見舞いを申し上げます。今回のような大震災では老若男女を問わず、その地に暮らす人たちの家屋を含めた多くの生活基盤が損なわれ、失われてしまいます。子どもたちも家族や自宅、学校、友達という毎日の生活環境が突然大きく変化してしまい、心身に大きな影響を受けてしまいます。

過去の国内の大震災である阪神・淡路大震災や東日本大震災においても子どもたちの発育に影響が生じたことが報告されています。また、海外でも中国四川省やインドネシアでの大震災などで子どもの発育状態に生じた変化が報告されています。

2008年の四川大震災後の乳幼児の発育を検討した報告では、身長発育の遅れや貧血の多発が2年後にも多く残っていることが記されています。その原因として、おとなと同じような食事の摂取ができない乳幼児用の離乳食が不足して低栄養になっていたことが考えられます。

一方、国内の前述の2つの大震災後の子どもたちの発育を検討した報告では、身長増加の抑制は生じていないものの、体重増加が平均を下回り発育曲線から下方にずれていく変化が年長の児童や生徒に見られることや、逆に体重増加が平均を上回り発育曲線から上方にずれていく変化が年少の児童を中心に見られることが記されています。前者は震災や避難生活のストレスによる食思不振が、後者はストレスによる過食や運動不足などが背景にあると考えられています。特に、もともと肥満傾向にあった子どもはより肥満が強まることが記されています。

このような変化に対しては、子どもたちが安心して生活できる環境づくりやストレスを発散できる遊びやスポーツなどの機会作りが有用と思われます。なお、中国では胎児期の被災が出生後や成人での高血圧や糖尿病のリスクを高めることも報告されています。

これらの報告から、子どもたちの生活環境の整備や心理状態への配慮、さらには妊娠中の女性への安全安心の確保が重要なことと考えられます。

鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授)[発育曲線][遊び・スポーツの機会づくり]

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