本誌5163号に「医療者を惑わす医療事故調査・支援センター主催研修」とのタイトルの一文を書いた)。
その中で、医療事故調査・支援センター(以下、センター)の研修スライドの「『医療事故』の定義」図は、“『医療事故』の部分に「疑いを含む」との記載がある。これでは『医療事故』疑いが報告対象のように誤解されてしまう。正しくは、「医療起因性要件に疑い例も含む」のであって、報告すべき『医療事故』に疑い例を含むということではない”と記し、センター研修を批判した。
今回、2023年12月9日開催の日医医療事故調査制度「医療安全管理者・実務者セミナー」でセンターが作成した資料では、この問題点が修正されていることがわかった。『医療事故』の定義図の『医療事故』の部分の「疑いを含む」の文字が消えて、医療起因性要件部分に「(疑いを含む)」と記載されている。また、消されていた「※過誤の有無は問わない」の文字も復活している。センターが誤りを認識して修正したようである。
本誌5183号で述べたように、センターへの報告対象は明確な『医療事故』であって、「『医療事故』疑い」を含んではいない。「医療事故の疑い」のあるものが、報告すべき『医療事故』なのではなくて、「医療に起因すると疑われる死亡又は死産」が『医療事故』になりうるということである。
医療法では、「医療に起因(疑い含む)する死亡」要件と、「予期しなかった死亡」要件とが重なった部分を明確に『医療事故』と定義した。したがって、センター報告すべき事例は、この『医療事故』に該当したものだけであり、「『医療事故』疑い」ではない。今回、センターが誤りを認め、資料の修正を行ったことは評価すべきことである。
5163号では、『医療事故』の判断のフローチャート図についても、「予期しなかった死亡」要件の入り口がなく、誤りであると指摘した。今回の資料でもそのフローチャート図がほぼそのまま残されているが、「(判断プロセスの一例)」という説明が追記された。おそらく、「このフローチャート図は『医療に起因する死亡』要件から判断する場合のフローチャート図です」という意味であろうが、これは片手落ちである。「予期しなかった死亡」要件の入り口が示されていない以上、やはり、このフローチャート図は誤りとしか言えないであろう。
小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[「医療事故」の定義]