双極性障害は,昨今では双極症とも呼ばれるエピソード(病相)性の気分障害で,経過中に躁・軽躁,抑うつなどのエピソードが発生することで定義される。エピソードとは,躁/軽躁状態・抑うつ状態が疾患レベルにまで強まったものを言う。躁/軽躁エピソードでは気分・行動・思考が亢進し,抑うつエピソードではそれらが抑制される。いずれでもない状態を寛解状態と呼ぶ。典型的には,躁/軽躁状態と抑うつ状態は別の期間に認められるが,それに加え,躁/軽躁状態と抑うつ状態の各要素が併存する場合があり,混合状態と呼ばれる。
DSM-5-TRやICD-10などの国際的診断基準に基づき診断するが,特に躁/軽躁エピソードについては気分だけでなく行動・思考に着目し,主観だけでなく客観的評価を確認することが重要である。
双極性障害の治療においては薬物療法が基本的に必要となるが,副作用など安全性に配慮する。併せて生活習慣の調整を励行し,また,心理社会的介入も検討する。エピソードが寛解すれば,維持療法へ移行し再発予防をめざす。順調に寛解へ進まない場合には,診断や心理社会的環境の見直し,社会資源の利用の追加も含めて治療方針を再検討する,というのが治療方針の概要である。以下,躁エピソード,抑うつエピソード,維持療法の順にそれぞれの選択薬を記載する。
まず,軽躁状態であれば気分安定薬単剤療法を,躁状態であれば気分安定薬と第2世代抗精神病薬の併用療法の選択が検討される。気分安定薬と抗精神病薬の併用療法は,有効性と効果発現までの時間において,気分安定薬単剤療法や第2世代抗精神病薬単剤療法より優れているため,忍容性に問題がなければ第一選択になるだろう。しかし,軽躁状態では躁状態と比較して効果発現までの時間が切迫していないため,炭酸リチウムなどの単剤治療が第一選択になると考えられる。どのエピソードにも言えることであるが,治療法の選択にあたっては,過去における薬剤反応性,副作用,他の病相の予防や治療との連続性,および患者の希望も考慮すべきであろう。
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