さる2月3日、4日に第118回医師国家試験が行われ、例年通り問題が公開された。私は2020年までの8年間、出題委員を拝命していたが、自分の専門分野についての国家試験問題をいくつか取り上げ、所感を記す。
まず、議論百出であったC問題28。「摂取カロリーが約80kcalなのはどれか:a 鶏卵1個(約50g)、b 木綿豆腐1丁(約300g)、c 食パン6枚切り1枚(約60g)、d 米飯(炊飯後)茶碗1杯(約160g)、e ビール中ジョッキ1杯(約570mL)」について。
毎年出されるパロディ動画1)でも「どう医学を勉強すれば木綿豆腐のカロリーにたどり着くんだ」と取り上げられたが、私個人としては良問と考えている。この問題の前提として、「80kcalの意味」を知っていることが挙げられる。これが100ではなく80である理由として、日本人が1食で食べる食品量との「相性の良さ」があり、80kcal=1単位という換算は有用である。選択肢の鶏卵1個は、まさにこの1単位に相当する。重要度の高い主食は、食パン1枚、米飯1杯はともに2単位で、若干難しい豆腐1丁は3単位、ビール中ジョッキ1杯は3単位弱と配慮も見られる。1単位分の食品の分量を写真で示したガイドブックも出ており、主要品目のある程度のカロリーは知っておくと応用範囲は広い。
次にC問題22。基準人口と対象集団の状況を表に示す。対象集団の標準化死亡比はどれか(表と注釈、選択肢は省略)という計算問題。
標準化には、対象集団の年齢別死亡を基準集団の人口構成に合わせる直接法と、基準集団の年齢別死亡を対象集団の人口構成に合わせる間接法とがあるが、標準化死亡比はSMRとも呼ばれ、間接法による標準化である。直接法は使用する対象集団の人口構成により数値は変動するが、年齢別死亡率がすべて同じ2地区の数値は必ず一致する。しかし、間接法では数値が対象集団の人口構成によるので、年齢別死亡率がすべて同じ2地区の数値が必ずしも一致しないという、かなり大きな欠点が存在する。SMR同士の比較が好ましくないとされるのもこの性質により、SMRが使用されるのは、対象地区の年齢階級別死亡率が得られない場合や、人口規模が小さく偶然変動が大きい場合に限られる。計算そのものより、このような背景についての出題はどうだろうかと思う。
この他では、インフォームド・アセント(B25)、子宮頸癌のワクチン予防(C16)、後ろ向きコホート(C53)、t検定(F23)に関しての知識を問うもの、RCT(B9)、臨床研究の市民参画(B11)、除外診断(B17)、メタ分析(E2)、非感染性疾患(E11)についての理解を問うもの、検査前確率と検査の感度、特異度から検査後確率を求める計算問題、Brinkman指数など、幅広く出題された。毎年、これだけの分量の新問題をつくり出していくために、多くの努力がなされていることにも、思いを馳せてもらいたいと思っている。
【文献】
1)YouTube:総統閣下は第118回医師国家試験を受験したようです.
https://www.youtube.com/watch?v=_tXMzWVoAdM
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[摂取カロリー][標準化死亡比]