読者の皆さんは、疾病のリスク低減について表示可能な特定保健用食品(トクホ)があることをご存知だろうか? 正確には「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)制度」になる。これまでに「カルシウムと骨粗鬆症」「葉酸と神経管閉鎖障害」について、それぞれ疾病リスク低減表示が認められてきた。そして、本年2月、新たに「心血管疾患」のリスクを低減する可能性がある旨の表示が認められた商品「DHA入りリサーラソーセージω:マルハニチロ(株)」が登場した1)。許可された表示は「本品はドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)を豊富に含みます。日頃の運動とDHAおよびEPAを含む健康的な食事は、将来、心血管疾患になるリスクを低減する可能性があります」となっている。
特定保健用食品の表示許可に関する調査審議は、内閣府消費者委員会新開発食品調査部会および新開発食品評価第一調査会にておこなわれる。議事録は一部非公開の箇所もあるが、ここ最近は疾病リスク低減表示トクホについての議論が中心になっているようである。その背景として、2015年から機能性表示食品制度が始まったことで、これまで消費者に馴染みのあったメタボ対策表示の特定保健用食品との差別化が難しくなったことなどが推測される。事実、特定保健用食品の許可・承認件数は、ここ10年間をみてみると1000件程度のまま横ばいで推移しており、年度ごとの新規件数は2015年以降激減している。また、血圧、血糖、中性脂肪などに関する表示は、特定保健用食品と機能性表示食品とで区別がつかない。そのため保健機能食品を所管する消費者庁は、特定保健用食品を「疾病リスク低減表示」にシフトし、メタボなどをターゲットにした従来の特定保健用食品を機能性表示食品に組み込んでいく思惑があるかもしれない。
また、製造販売を担う企業としても許可・承認を得るまでに莫大な費用、膨大な時間、多大な労力を要する特定保健用食品に比べて、自由度の高い機能性表示食品に関心を持つことは自明の理であろう。それを裏づけるかのように機能性表示食品の届出件数は右肩上がりであり、直近で8000件を超えている。
しかし、ここで企業側に申し伝えたいことがある。機能性表示食品として届出を行い、大々的に広告をうちだすことで、売上増加を期待しているのかもしれないが、残念ながら現実はそう甘くないようである。消費者庁の機能性表示食品に関するデータベースで「販売中の食品」のみ検索すると3355件であった。届出件数の半分以下である。これから販売する予定の商品もデータベースには登録されているので、差分のすべてが販売中止あるいは休止・届出取り下げとなったわけではないであろうが、なかなか厳しい状況と言わざるをえない。
そもそも、特定保健用食品・機能性表示食品などの保健機能食品制度は、売上アップのツールではなく、消費者保護の観点から企業が守るべきルールである。そのことをぜひ、忘れないでおいてほしい。
※筆者とマルハニチロ(株)との間に開示すべき利益相反はない。
【文献】
1)MARUHA NICHIRO公式サイト:ニュース. 日本初!心血管疾患のリスクに備える特定保健用食品「DHA入りリサーラソーセージω」.(2024年1月16日)
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/2024/01/16.html
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法]