前稿(No.5212)で述べたように、高齢期の就労は、概して健康に好影響を与えるとの研究は多数見られる。一方では、元気な高齢者のみが就労でき、その効果も元気な高齢者に限定されると考えられがちである。
そこで、筆者らは高齢者の就労状況とフレイルの有無が要介護認定を受けるリスクに及ぼす影響について検討した1)。東京都内の65〜84歳の男女6386名を対象に、質問紙によって、初回調査(2016年)時点の就業状況(非就業:3704名、フルタイム[週35時間以上]就業:1134名、パートタイム[週35時間未満]就業:1001名、不定期就業:547名)とフレイルの有無を調べた。その結果、フルタイム、パートタイムで働く人の内で、フレイル群はそれぞれ17.5%、15.3%もいた。その後、回答者全員を3.6年間追跡し、就業状況と新規要介護認定の発生との関係を分析した。その結果、3.6年間で新規要介護認定を受けたのは806人(12.6%)であり、その内訳は、非就業:16.8%、フルタイム:5.6%、パートタイム:5.8%、不定期:11.2%であった。具体的には、フレイルでない群(=ロバストな群)においては、非就業と比較して、フルタイム、パートタイムいずれも新規認定を31〜34%抑制した。一方、フレイル群においてはフルタイムのみ新規認定のリスクを57%抑制した。
ロバストな高齢者は、フルタイムであれパートタイムであれ、働くことが新規要介護認定全体のリスクを抑制することが示された。一方、フレイルであっても、フルタイムで働くことにより新規認定を抑制できる可能性が示唆された。なお、不定期に働くだけでは有意な介護予防効果は期待できなかった。ロバストな群の場合には、パートタイムで働く以外に趣味やスポーツ、ボランティアといった他の社会活動に参加している人が多く、フレイル群の場合には、就労以外の社会活動に参加している人が少ない傾向があった。就労を含む社会活動全体の総量が多いほうが介護予防効果があるという研究が散見されることから、フレイル群では、パートタイム就労だけでは社会活動全体の総量が十分ではない可能性がある。
2019年に厚生労働省の「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の取りまとめが公表されて以降、国や自治体では、運動や茶話会等に加えて多様な社会活動を通した介護予防活動を勧奨している。本研究は、その中でも着目されている有償の活動である「就労的活動」を取り入れることのエビデンスにもなりうる。今後は、フレイルになっても、希望者にはフルタイムで働ける仕事や作業とは何かを精査し、適材適所にマッチングする仕組みが求められる。
一方、高齢者にとって、がむしゃらに働きさえすればよいのかという問いもありえる。次回は、就労の目的と健康の関連について述べたい。
【文献】
1) Fujiwara Y, et al:Geriatr Gerontol Int. 2023;23(11):855-63.
藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)[高齢者就労][健康]