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脳科学から見た子どもへの虐待の要因と予防策は?〜黒田公美(東京工業大学生命理工学院生命理工学系教授)【この人に聞きたい】

No.5214 (2024年03月30日発行) P.8

黒田公美 (東京工業大学生命理工学院生命理工学系教授)

登録日: 2024-03-29

最終更新日: 2024-03-27

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「孤立子育て」と子ども時代の逆境などが重なり虐待の要因に
養育者支援プログラムの普及・提供とともに、
低学歴、貧困、孤立を防ぐ幅広いサポートが必要

くろだ くみ:1997年大阪大学医学部卒業後、精神神経科で研修。2002年同大学大学院医学系研究科博士課程修了。カナダ・マギル大学精神神経科病院付属研究所研究員、理化学研究所脳神経科学研究センター親和性社会行動研究チームチームリーダーなどを経て、2023年4月より現職。専門は親子関係と親和的社会性の行動神経科学。

親(養育者)やそのパートナーが子どもを虐待死させる事件が後を絶たない。どうすれば虐待死を防げるのか。脳科学の研究をもとに、子どもの虐待防止に取り組む東京工業大学生命理工学院生命理工学系の黒田公美教授に聞いた。

脳内回路が子育てと攻撃性に関係

─脳科学の研究からわかってきた、養育者が子どもを虐待する要因について教えて下さい。

私はもともと動物の脳の研究者です。動物も子どもを虐待することがあるので、まずはそれがどういう場合なのかを調べました。その要因の1つは、自分が子どものときにきちんと育てられなかったという子ども時代の逆境体験です。要するに子育ては、学習しなければできないものなのです。

もう1つは、子育てや攻撃性の制御に関わる神経生物学的要因です。私たちはマウスを用いた実験で、脳内の内側視索前野中央部(c MPOA)という小さな部位が子育てに必須であることをつきとめました。マウスでは、身の危険があるとcMPOAの働きが抑制され、子への攻撃に関わる分界条床核菱形部(BSTrh)という部位が活性化します。人間では、被虐待などの小児期逆境があると、cMPOAの働きが抑制されたり、ささいなことでキレやすく不安になったりしやすいと考えられます。

そして、最も影響が大きいのは、現在の子育て環境が困難であることです。人間では貧困や、自分やその子に病気や障害があったり、若年妊娠・出産だったりすると、虐待が起こりやすくなります。

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