親(養育者)やそのパートナーが子どもを虐待死させる事件が後を絶たない。どうすれば虐待死を防げるのか。脳科学の研究をもとに、子どもの虐待防止に取り組む東京工業大学生命理工学院生命理工学系の黒田公美教授に聞いた。
私はもともと動物の脳の研究者です。動物も子どもを虐待することがあるので、まずはそれがどういう場合なのかを調べました。その要因の1つは、自分が子どものときにきちんと育てられなかったという子ども時代の逆境体験です。要するに子育ては、学習しなければできないものなのです。
もう1つは、子育てや攻撃性の制御に関わる神経生物学的要因です。私たちはマウスを用いた実験で、脳内の内側視索前野中央部(c MPOA)という小さな部位が子育てに必須であることをつきとめました。マウスでは、身の危険があるとcMPOAの働きが抑制され、子への攻撃に関わる分界条床核菱形部(BSTrh)という部位が活性化します。人間では、被虐待などの小児期逆境があると、cMPOAの働きが抑制されたり、ささいなことでキレやすく不安になったりしやすいと考えられます。
そして、最も影響が大きいのは、現在の子育て環境が困難であることです。人間では貧困や、自分やその子に病気や障害があったり、若年妊娠・出産だったりすると、虐待が起こりやすくなります。