肺炎球菌感染症は,グラム陽性双球菌であるStreptococcus pneumoniaeによる感染症である。肺炎球菌は90種類以上の血清型が知られており,血清型により病原性に違いがみられる。肺炎球菌は小児の20%程度が咽頭に保菌しているとされており,そこから高齢者に感染したり,自らが有する肺炎球菌により副鼻腔炎や肺炎などの上下気道感染,髄膜炎,菌血症などのあらゆる感染症を発症したりする。胸水,髄液,血液などの無菌検体から肺炎球菌を検出した場合,侵襲性肺炎球菌感染症と定義される。
肺炎であれば喀痰を含めた下気道検体からの培養,菌血症であれば血液培養が診断のゴールドスタンダードである。ただし肺炎の診断において,良質な喀痰によるグラム染色ならびに培養が重要であり,抗菌薬投与後早期に喀痰から肺炎球菌が検出されなくなる可能性があることに注意が必要である。良質な喀痰を採取できない場合,簡便で迅速に結果が判明する尿中抗原検査も診断に有用である。
肺炎診療において,最初から原因菌が判明していることは稀であり,可能な限り喀痰培養検査と血液培養検査ならびに尿中抗原検査を行った上で,早期に有効な抗菌薬を投与することが重要である。肺炎球菌と判明している場合,臨床的にペニシリン耐性肺炎球菌が問題となることは少なく,ペニシリン系抗菌薬が治療の中心である1)~3)。ペニシリンアレルギーなどでペニシリン系抗菌薬が使用できない場合,ニューキノロン系抗菌薬の中でもレスピラトリーキノロンと呼ばれる,肺炎球菌に抗菌活性が高い薬剤を使用することもある。集中治療室(ICU)での治療を要するような重症肺炎や菌血症を伴う場合,βラクタム系抗菌薬にマクロライド系抗菌薬を併用することで予後の改善を認めたとする観察研究が多数あり,両薬剤の併用療法が望ましい3)。
髄膜炎や髄膜炎合併の場合,抗菌薬の髄液移行性の問題から可能な限り高用量の抗菌薬を投与することが重要である2)。
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