2024年3月、米大リーグ・日本人スター選手の元通訳による巨額の窃盗疑惑が明らかとなり、世間に大きな衝撃を与えました。報道では、元通訳の違法ギャンブルによる巨額の借金がきっかけのようです。本稿では、今回の事件で大きく注目されたギャンブルについて考えてみます。
ギャンブル=賭博とは、「価値のあるもの(主に金銭)を危険にさらし、より価値のあるものを手にいれる行為」と定義されます。その特徴は、勝つか負けるかがほとんど偶然に支配されている点です。勝てば大金を手に入れられるギャンブルは、人間の快楽を刺激します。一攫千金の魅力にいったん取り憑かれると、ギャンブルをやめて地道な生活に戻るのが難しくなります。ギャンブルは世界各国で行われ、ブラックジャックやスロットマシンを備えたカジノ、宝くじなど様々な種類があります。
ギャンブルも時代とともに変化し、インターネットを介して様々なギャンブルにアクセスできるようになりました。最近世界的に人気が高まっているギャンブルの1つがスポーツ賭博です。スポーツは、勝つか負けるかで世界中の人々を熱狂させることができ、賭けの対象としても魅力的です。オンラインのスポーツ賭博市場の収益は2024年には459億4000万USドル、2029年までには656億8000万USドルに達すると予測されています1)。日本では、1907年に施行された刑法第百八十五条でギャンブルは禁止されていますが、国境を越えるインターネットでは、今後日本もスポーツ賭博と無関係とはいかないかもしれません。
ギャンブル依存症は、米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)で、ギャンブル障害(Gambling Disorder)という病名で定義されています2)。ギャンブル依存症になると、大きな損害が生じるにもかかわらず、ギャンブルを続けたいという誘惑や衝動を抑えられなくなります。
勝ちを追い求めて最後には賭け金を失ってしまいますが、それを周囲の人に隠し、ときには噓までつき、資金を使い果たし、負けを取り戻すために借金してまでのめり込み、次第に借金額が膨らみます。そして借金すらもできなくなり、やむなく窃盗、横領や詐欺行為といった違法行為に手を染めてしまうこともあります。最終的には生活が破綻し、一家離散、懲戒解雇、逮捕や自殺など深刻な事態に至ることもあります。
このようにギャンブルは、いったん依存してしまうと、ユーザーのみならず、家族や友人など周囲の人を巻き込んで深刻な問題につながりかねません。冒頭の事件によって、ギャンブルの問題が社会的に大きくクローズアップされましたが、これを個人だけの問題にとどめず社会全体の問題と捉えて、正しい情報を得て考えていくきっかけにしていただければと思います3)。
【文献】
1)Statista公式サイト:Online Sports Betting-Worldwide.
https://www.statista.com/outlook/amo/online-gambling/online-sports-betting/worldwide
2)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5-TR). AM PSYCHIATRIC ASSOCIATION PUB, 2013.
3)Butterfly Heart公式サイト. https://izonsho.mhlw.go.jp/
松﨑尊信(国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)[ギャンブル][スポーツ賭博][ギャンブル依存症]