本年3月28日、「令和6年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」が公表された。同時に「令和6年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルについて」と題された事務連絡通知が厚生労働省医政局医事課、政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室の連名で発出され、別添「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル令和6年度改正点のご案内」というリーフレットも出されている。厚生労働省のHPにはQ&Aも掲載されるという手厚さである。
マニュアルの内容を見ると医師法第21条部分については、これまでの見解を引き継ぐとともに、「死亡診断又は死体検案に際して、死体に異状が認められない場合は、所轄警察署に届け出る必要はありません」と明記されたことは評価すべきものである。Q&Aにおいても、「死体検案書を交付する場合でも、死体に異状が認められない場合は、所轄警察署に届け出る必要はありません。あくまでも、死体に異状が認められるかどうかで判断してください。死亡診断書についても同様です」と記載されており、死体に異状が認められない場合は警察届出の必要がない旨を明記している。
一方、警察署への届出が必要な場合については、「交付すべき書類が『死亡診断書』であるか『死体検案書』であるかを問わず、異状を認める場合には、所轄警察署に届け出てください。そのうえで死亡診断書又は死体検案書を交付する場合は、捜査機関による検視等の結果も踏まえた上で記載して下さい」とされている。
妥当な内容であろう。ただ、異状を認める場合について、「異状の有無は、死亡診断又は死体検案を行う医師が個々の状況に応じて個別に判断していただく必要があります」と記載されている。この一文は、2019年3月13日衆議院厚生労働委員会における橋本岳議員の質問に対する吉田学医政局長の答弁に基づくものと思われる。「個々の状況に応じて死体を検案した医師が届出の要否を個別に判断する」ということは、状況によっては警察捜査の対象とならないのか危惧されるところではあるが、吉田医政局長は同時に、「厚労省は、診療関連死について届け出るべきだと申したことはない」と答弁していることから、診療関連死については、さほど心配すべきことではないであろう。ただ、検案については、若干慎重にならざるをえない。
今回の死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルは、医師法第21条部分に関しては、「死体に異状が認められない場合に警察に届け出る必要がない」ことを明記したきわめて妥当なものであろう。なお医師法第20条部分については、やや気になる点もあり、次号で検討したい。
小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医師法第21条]