コロナ禍が始まった当初から、コロナが空気感染であるか否かと合わせて議論されてきた「空気感染」の定義について、WHOと各分野の専門家が合意したことが発表された1)。これにより、大きさを問わず空気中へ飛散した物体を介して感染する経路を、総じて「空気感染」とすることが確認され、コロナもこれに含まれることが明示された。
そもそも空気中に放出された病原体を含む粒子が、飛沫としてすぐに落下してしまうか、エアロゾルとして空気中にとどまり飛沫が及ぶ距離や時間を越えて広がるかどうかは、粒子の大きさだけでは決まらず、空気の流れや湿度など様々な要因に左右される。にもかかわらず、医学においては長らく「5μm」までの粒子を飛沫、それより小さい粒子をエアロゾルと定め、前者による感染は1〜2m以上離れていれば広まらないとされてきた。
しかし、その大きさは最初の記載では肺の奥まで到達しやすい粒子の大きさとして言及されたものが、空気中にとどまるエアロゾルの大きさの基準と混同されただけであったことも既に示されていた2)。この記載を鵜呑みにして飛沫は1〜2mの範囲にすぐに落下すると主張することは、アリストテレスの誤った記述を根拠に、重い物体が軽い物体よりも早く落下すると主張することとなんら変わりはなかったのだ。
また、ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大は、コロナが空気感染である可能性を最も早く理解する機会であり、海外からもそのような指摘があったがその後多くの命を救うことに結びつけられなかったことも残念でならない3)。
現在、鳥から乳牛へと広がり人への感染も報告されている鳥インフルエンザH5N1も、空気感染を含めた複数の感染経路を持つことが指摘されている。鳥同士で感染が広まり、米国の乳牛にも広範な感染を示していること、北米の海岸でアザラシなどの群れ単位での死骸が見られることを考えると、同種間で感染が広がっていることは明らかであろう。
コロナ禍が始まった当初、空気感染はしない、人から人への感染はない、だから広範な検査は必要ないとされたことは、その後多くの命を奪うことにつながった。この轍をふまず、早急に対策を進める必要があるとの指摘に強く同意する4)。
【文献】
1)WHO公式サイト:Global technical consultation report on proposed terminology for pathogens that transmit through the air.(2024年4月18日)
https://www.who.int/publications/m/item/global-technical-consultation-report-on-proposed-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air
2)Randall K, et al:Interface Focus. 2021;11(6):20210049.
3)Almiraji O:Aerosol Air Qual Res. 2020;21(4):200495.
4)The New York Times公式サイト:OPINION. This May Be Our Last Chance to Halt Bird Flu in Humans and We Are Blowing It.(2024年4月24日)
https://www.nytimes.com/2024/04/24/opinion/bird-flu-cow-outbreak.html
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[WHO][飛沫・エアロゾル][インフルエンザ]