2024年5月10日、経済産業省がひっそりと行ったある発表 1)が、日本の医療事故調査を変えるかもしれない。
国際標準化機構(ISO)の国際基準は医療現場にも広がっている。たとえば私たち病理医にとっては、臨床検査室におけるISO15189が馴染み深い2)。
そんな中、消費者事故調査に関する基準であるISO5665「消費者事故調査〜要求事項とガイダンス」が発行されたのだ。
実はこれは日本が提案したもので、その主張が世界的に認められたものだ。私たち全国医師連盟の前代表中島常夫先生も長らく発行のための活動に加わっていた。ISO5665の最大の特徴は、航空機事故調査などと同様に、消費者事故調査の原則も「事故調査の唯一の目的は、更なる事故の発生を防止することである。この活動の目的は、非難や責任の所在を明らかにすることではない」と規定し、調査を通じた責任追及や補償の視点と分離したことだ。
日本の医療事故調査が本来の趣旨から離れたものであることは、この欄でも取り上げてきた(たとえばNo.5195)。その声はなかなか国には届かず、忸怩たる思いを抱いていた。
しかしようやく、日本の医療事故調査制度が国際基準に合致しているのかを問うことができるようになった。ISO5665に満たない、責任追及を目的とした調査が続くと、日本の医療界は国際的に非難され、影響力や信頼性の低下をもたらすことになるだろう。
こうした「外圧」がないと変わらないのは残念ではあるが、今回の「外圧」は日本発であり、単純に「外圧」と言い切れない面がある。この日本発の「黒船」が日本の医療事故調査の正常化の第一歩となることを心より願っている。
【文献】
1)経済産業省公式サイト:世界初の「消費者事故調査」に関する国際標準が発行されました〜再発防止に資する事故調査を目指して(ISO5665).
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/is/20240510.html
2)公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)公式サイト:臨床検査室(ISO15189)
https://www.jab.or.jp/service/medical_laboratory
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[国際標準化機構][消費者事故調査の原則]