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【識者の眼】「オープンサイエンスを巡って③─論文のオープンアクセスの方法は正しかったのか?」船守美穂

No.5229 (2024年07月13日発行) P.62

船守美穂 (国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授)

登録日: 2024-06-26

最終更新日: 2024-06-26

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前回は、学術雑誌購読料が高騰し続けることへの対応として、2000年頃に当時普及しつつあったインターネットを利用し、論文をオープンアクセス(OA)で流通させることが考案されたと報告した(No.5219)。今回は、ここで編み出された論文のOAの方法を紹介し、その妥当性について論じたい。

論文のOAとして、2つの方法が考案された。1つは、ネット上に学術論文を集積するサイトを設け、研究者が自身の原稿をそのサイトにアップロードする方法である(通称:グリーンOA)。大学図書館が各大学において「機関リポジトリ」を整備し、自大学の研究者に対して論文の登録を促した。機関リポジトリに登録されたコンテンツは、たとえば、Google ScholarやCiNii Researchなどの論文検索サイトにおいて横断検索が可能となる。また、米国では研究助成機関であるNIHが独自にリポジトリを構築し、助成を受けた研究プロジェクトにより生み出された論文コンテンツの登録を義務づけた。医薬系の研究者によく知られているPubMedである。

もう1つは、学術雑誌自体をOAとする方法である(通称:ゴールドOA)。フルOA誌では、すべての掲載論文がネット上の学術雑誌出版サイトにおいてオープンに公開される。この方法は、きわめて利便性の高いものであるが、出版に関わるコストを購読料収入に依存できないため、大きなビジネスモデルの転換を必要とする。これについては、「論文著者」が「論文掲載料(article processing charge:APC)」を負担するかたちでの解決が模索された。学術雑誌自体のOA化の理念に基づき、フルOA誌の先陣を切ったのが学術雑誌PLOS(Public Library of Science)である。

ここに紹介した「グリーンOA」と「ゴールドOA」という2つの方法は、考案から20年以上たった現在においても論文のOA化の基本方式であり、各国はこれを推進する政策をとり続けている。しかし、それぞれに問題もある。「グリーンOA」は各研究者の論文登録の手間が大きい上、正規の学術出版を前提とした方法のため、学術出版とその流通に余計な労力をかけているとも言える。「ゴールドOA」は、初めのうちはAPCも低く抑えられていたが、近年はOA出版に論文著者が費用を負担することが一般化したため、多くの雑誌にAPCが導入されて金額が上昇しつつある。最も高額なネイチャー誌のAPCは1万2290ドル(193万円)もする。いずれのOA化の方法も、商業出版社の手玉に取られていると言わざるをえない。

今日、世界の論文の約3割がOAとなっている。全世界の人々が学術の果実にアクセスできるべき、という「OA」の気高い理念がその駆動力となった。しかし、その高い理念が目くらましになって、OAの生み出す高コスト構造を気づきにくくしたとも言える。いつの間にか、当初の学術雑誌購読料問題以上に、コスト面では事態が悪化している。

OAやオープンサイエンスはその気高い理念ゆえに、世界人類の目標であり続ける。しかし、その費用対効果もふまえながら推進されるべきなのではないか。

船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授)[学術雑誌の購読料高騰論文のOA化商業出版社][グリーンOA][ゴールドOA

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