第3回(No.5219)でお伝えしたように、医療とアートの連携が近年注目を集めている。そんな中で、コミュニティドクターが病院や診療所から飛び出して、地域住民との関わりの中でまちの健康を築いていくように、アートの分野でも、アトリエでの作品制作や美術館を飛び出し、地域に暮らす人とともに作品をつくる「アートプロジェクト」と呼ばれる活動があることを知った。
アートプロジェクトとは、「現代美術を中心に1990年代以降日本各地で展開されている共創的芸術活動」であり、「作品展示にとどまらず、同時代の社会の中に入りこんで個別の社会的事象と関わりながら展開される」「既存の回路とは異なる接続/接触のきっかけとなることで、新たな芸術的/社会的文脈を創出する活動」1)とされている。むずかしく聞こえるが、最近よく耳にする、〇〇芸術祭や〇〇トリエンナーレなどを例に挙げるとイメージしやすいだろうか。その他にも、商店街やまちの一角、農村で開かれるものなど、その規模や形態は多種多様だ。
共通していることは、アーティストがその地域に滞在し、住民や文化に触れながら、双方向的なコミュニケーションをもって制作活動を行うという点である。文化芸術そのものだけではなく、地域の新たな魅力の発掘につながり、人の動きが生まれ経済が活性化する場合もあり、地方創生の視点からも注目されている。
さて、このアートプロジェクトと地域医療に一体どのような関係があるのだろうか? 医療・アートといったそれぞれの専門性を持った文脈をそのまま地域に持ち込むのではなく、地域と「共創」するということが、共通する重要な点である。また、医療者が地域活動をするという取り組み自体は日本各地で行われているはずだが、その実践が体系化される機会がまだ少ない。一方で、アートプロジェクトは公民問わず日本各地での実践の蓄積がみられているため、領域を超えて学べることが多くあるだろう。
人が健康に過ごすために必要なものは、医師が診察室や病院で提供できる手術や薬などの直接的な治療だけではない。社会的なつながりや生きがいといった要素が、well-beingの視点から注目されている。地域医療を通して、どのように地域住民とコミュニケーションを取っていくか、活動のプロセスをどう関わる人たちに開いていくのか、活動で生まれた様々な出来事や価値をどのように表現していくのか。アートプロジェクトの実践の中には、医療者が地域に入って活動するために大切な要素が含まれているのだ。
健康問題が複雑性を増す中、これからの人やまちのwell-beingを考える上で、医療にとどまらず、専門性や分野の垣根を越えて手を取り合うことが重要だ。時には視点を変えて、医療者もアートプロジェクトの担い手であるととらえてみると、地域との関わり方もぐっと広がって見えるように思う。
【文献】
1)アートプロジェクト 芸術と共創する社会. 熊倉純子, 監. 水曜社, 2014, p9.
坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][アートプロジェクト]