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イスラエルにおけるウエストナイル熱の増加[感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(25)]

No.5231 (2024年07月27日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2024-07-25

最終更新日: 2024-07-23

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●ウエストナイル熱とは1)2)

ウエストナイル熱は,ウエストナイルウイルスによる感染症です。ウエストナイルウイルスは1937年に初めて,ウガンダのウエストナイル地方で発熱した女性から分離されました。ウエストナイルウイルスはトリと蚊の間で感染環が維持され,主に蚊を介してヒトに感染し,発熱や脳炎を引き起こします。日本からは感染例は報告されていませんが,欧州や米国などで1990年代中頃から流行が発生しています。特に,北米の流行では従来と異なり,感染トリの発病率や死亡率の上昇,ウマとヒトにおける流行,重篤な脳炎患者の発生が顕著です。日本においては,新興感染症・輸入感染症として注意が必要です。感染症法における四類感染症に定められており,診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出ることが義務づけられています。

潜伏期間は3〜15日で,感染例の約80%は不顕性感染に終わります。発症した場合,多くは急性熱性疾患であり,約1週間で回復します。典型的な経過では,3〜6日間程度の発熱,頭痛,背部痛,筋肉痛,筋力低下,食欲不振などを認めます。皮膚発疹を約半数で認め,リンパ節腫脹も合併します。感染者の約1%(多くは高齢者)に,重篤な症状として,頭痛,高熱および方向感覚の欠如,麻痺,昏睡,震え,痙攣などの髄膜炎・脳炎症状を認め,死亡率は重症患者の3〜15%と報告されています。

血清や脳脊髄液を用いて,ウイルスRNAの検出,培養細胞や乳飲みマウスを用いたウイルス分離を行い診断します。RT-PCR法による診断方法が検出感度が高く,特異性にも優れています。

●イスラエルにおけるウエストナイル熱増加の報告3)

イスラエル保健省から,2024年以降に同国におけるウエストナイル熱の感染者数の増加が報告され,2024年7月9日までに299例の確定例(うち死亡15例)が報告されました。この報告者数は,2023年の同時期と比較して400%も増加しています。ほとんどの感染者は,テルアビブ,ペタ・ティクヴァやキリヤット・オノなど,ガザ境界から80km以内の近郊都市で発生しています。公式データによると,イスラエルで記録されたウエストナイル熱の最大の流行は2000年で,425人の患者が確認され,29人が死亡しました。2000年以降は患者数は大幅に減少し,通常,年間約50件が夏季に報告されています。最近の感染者数の増加の要因に,世界的な気温上昇や気候変動,イスラエルとガザとの紛争が関係している可能性があると指摘されています。

●ウエストナイル熱は対症療法となり,蚊の対策が重要

現時点で,ウエストナイル熱に対する特異的な治療はなく,対症療法を行います。さらに,現時点で利用可能なワクチンもありません。そのため,予防としては,媒介蚊の駆除や虫除け剤の使用などによって,蚊との接触を防ぐことが重要です。日本では感染例の報告はありませんが,海外との往来が増加しているので,発熱・精神症状が認められ,ウイルス性脳炎が疑われる流行地域からの患者においてはウエストナイル熱を鑑別に挙げ,疑うことが重要です。

【文献】

1)厚生労働省:ウエストナイル熱について.(2024年7月9日アクセス)

2)国立感染症研究所:ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎とは.(2024年7月9日アクセス)

4)Ehlkes L, et al:Euro Surveill. 2017;22(39):16-00728.

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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