医師の働き方改革に関する改正医療法では、月に100時間を超える時間外労働に医師を従事させる場合、面接指導の実施を医療機関側に義務づけている。この制度のミソは、100時間を超える前のタイミングで別の医師に面接指導を行わせる点であり、面接指導や疲労蓄積の評価を事前に行わずに100時間を超える労働があった場合には、法律違反となる。特に、過労死ラインを超えるBおよびC水準が適用される医師にとって、面接指導制度をはじめとする追加的健康確保措置は長時間労働の健康リスクに対する安全装置としての役割を持つ。
面接指導に従事する面接指導担当医師になるためには、本制度のために行われるWeb研修を受講することが条件だ。これまで、一般労働者の過重労働に対して行われてきた医師の面接指導は、実質、経験を重ねた産業医が主に担当してきたのに対し、産業医資格の有無に関係なく一般の医師が担当する。職場の医師が相互にコミュニケーションをとり、理解しあえる場にもなるなどの利点が挙げられている一方、この医師の面接指導がはたして適切に機能するのか、数々の疑念を持って制度が迎えられたことも事実である。
個々の医療機関における適切な運用を目的に、厚生労働省が制度の周知と啓発に奔走し、WebサイトやWeb研修の充実を図ってきた。面接指導を実際にロールプレイで行う研修も昨年から継続しており、筆者もファシリテーターの1人として参加している。手上げして積極参加している医師たちが集まるせいか、また、マニュアル等で事前情報が与えられていることもあって、医師対医師の面接指導の勘どころを素早く理解し、面接指導の経験が一度もないとは思えないほどスムーズな会話を見せる人もいる。全体からみればほんの一握りかもしれないが、意識の高い医師たちの常識と社会性に、反対に教えられ、多くの医師たちとコミュニケーションを持てることは喜びでもあった。
研修で使用される教材を見ると、リスクのある医師を見破る判断材料として、睡眠時間の確認とバーンアウト(燃え尽き症候群)の見きわめが強調されている。この2点は独立しているようだが、密接にリンクする。長時間労働をしていても睡眠時間がとれている人はストレスやうつ病が有意に少ない1)。また、バーンアウトはストレス関連の状況であり、うつ病の危険因子であって、睡眠障害を引き起こしやすい。医師の過労死の研究から得られた結論なのであろう。このような睡眠時間とメンタルヘルスの視点からリスクのある医師を予見し、過労死の予防につなげることが重要とされている。
産業保健と法律を学ぶ学会が先日あり、医師の過労自死が労災として認められた事例についてのシンポジウムの座長を務めた。その事例は改正医療法施行前であったこともあり、多くの病院がそうであったように医師の労働時間の把握はされていなかった。しかし、後の労働局の調査で月200時間を超える著しい長時間労働があったことが明らかとなった。改正医療法施行後であったら、医師の面接指導が行われ、医師の死を防ぐことができたかもしれない。めざすべき方向は明らかだろう。医師の働き方改革が様々な視点から行われている中、過労死を防ぐ最後の砦が医師の面接指導なのだと思う。
【文献】
1) Matsuura Y, et al:Ind Health. 2024;62(5):306-11.
黒澤 一(東北大学環境・安全推進センター教授)[改正医療法][面接指導]