著: | 林 剛司(産業医,株式会社日立製作所安全衛生マネジメント推進本部健康経営推進部産業保健推進センタ長) |
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著: | 髙木道久(弁護士,栄パーク総合法律事務所代表) |
判型: | A5判 |
頁数: | 216頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2023年09月18日 |
ISBN: | 978-4-7849-3186-6 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
1章 復職判定
教訓1 業務が限定されていない労働者が復職する場合,従前の業務ができないことを理由に,復職不可と判断すべきではない。
教訓2 職種が限定された労働者の復職について,従前の業務に復職できなくとも労働者が復職を希望している場合には,復職を検討する必要がある。
教訓3 必ずしも労働者自身から現病歴等について積極的な申告があるわけではないことを前提とし,適切に体調不良者に対応する必要がある。
教訓4 職場復帰の際に,検討すべき従前の業務とは,休職前の軽減した業務はなく,本来通常行うべき職務を基準とすべきである。
教訓5 常に録音されていることを前提に面接を行うべきである。
教訓6 経営側に踏み込み過ぎた産業医意見は,産業医の信頼性を失わせ,自らも訴えられる可能性がある。
教訓7 職場復帰には産業医面談が必須である。
教訓8 労働者の復職について,単に休まず出社できればよいのではなく,休職前の職位に相当する業務ができることが必要である。その判断については,休職中に産業医が定期的に面接することも有効である。
教訓9 復職の判断に際して,主治医の判断だけではなく,「リワークプログラム」の状態を重視すべきある。
教訓10 「復職可」の診断書に復職日が指定されていたとしても,必ずしもそれまでに復職可否判定をしなければならないわけではない。労働者の職場復帰の可否を判断し,復帰する職場と復帰日を決定するためには,相当の時間を要する。
教訓11 試験出社開始時には,職場復帰の条件を明確にしておく。
2章 安全配慮義務
教訓12 健康管理は福利厚生施策にとどまらず,リスク管理である。
教訓13 精神的な不調で欠勤を続ける労働者に対して無断欠勤を理由とする解雇は無効であり,まず専門医を受診させる必要がある。
教訓14 労働者の既往歴・就業制限の既往は適切に管理する。就業制限について判断が難しいケースについては,安易に産業医単独で判断するのではなく,主治医の意見も確認する。
教訓15 産業医は専門分野外であっても一定水準の医学的知識を習得すべきである。産業医自身が不適切な発言により被告になりうる。
教訓16 新人などの経験の浅い労働者の労働強度は,高く見積もられる。自殺を示唆するようなケースは,本人が拒否していても家族に連絡し,まず安全を確保することが必要である。
教訓17 ハラスメントにより体調を崩した場合には,産業保健スタッフに相談しやすい体制を構築する必要がある。
3章 プライバシーに関するケース
教訓18 雇入れ時の健康診断において,同意を得ずに法定外の健診項目を実施することはプライバシー権の侵害である。雇入れ時の健康診断で採用の適否を判断してはならない。
近年,過重労働による健康障害対策,ストレスチェック制度導入によるストレスチェックおよび面接指導の実施を含むメンタルヘルス対策,治療と職業生活の両立支援対策,化学物質の自律的管理支援など,労働者の健康確保対策が多様化してきている。それに伴い,産業医に求められる役割等も変化し,産業医が対応すべき業務が増加し重要性を増している。
このような背景から,産業医が裁判に関わる事例も増加している。判例データベース(LIC判例秘書。定評のある民間判例データベースのひとつ)を用いて,判例文中の「産業医」をキーワードに判例を検索すると,2002年6月1日~2012年5月31日の10年間で165件が抽出されたのに対して,2013年6月1日~2023年5月31日の10年間では346件が抽出された。これらは必ずしも産業医が被告の立場ではないが,産業医が関与する裁判事例は約2倍強に増加している。
産業医が訴訟に関わるケースとしては,①疾病に罹患した労働者の復職や解雇に関するケース(復職判定),②自殺や過労死を含む疾病の発症や増悪に関するケース(企業の安全配慮義務),③ 労働者のプライバシーに関するケース等が考えられる。
司法判断の動向として治療と職業生活の両立支援や障害者雇用促進法改正に基づき合理的配慮を定める等,国民総活躍を目指そうとする中,裁判所も疾病障害者に対して企業が果たすべき責務の内容を徐々に高度化させてきている。
また,産業医は臨床医と異なり,問題となる労働者だけではなく,その労働者を取り巻く職場に対する影響も考慮する必要がある。
そのため,前記①~③の場合に適切な判断をするため,および,そのような事態を予防するために,労働裁判の判例を知っておくことは有用である。
働き方改革関連法により2019年4月1日より「産業医は,労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない」〔労働安全衛生規則(安衛則)14条7〕とされた。本書が産業医活動の一助になれば幸いである。
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。