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【識者の眼】「少産・長寿を達成した理想郷のジャパン」中村安秀

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2024-10-18

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アジアで最も保健医療指標の悪い国の1つであるパプア・ニューギニアの山岳地帯を訪問したとき、医師は「私たちは、多産・短命と日々闘っています!」と訴えていた。彼ら・彼女らからみると、日本は真逆である。「少産・長寿」を達成した理想郷のジャパンであるはず。なのに、日本から届く情報は、少子高齢化社会の問題点ばかり。「元気のいい高齢者は日本にいないのですか?」という素朴な質問を受けた。

先日、私の郷里の和歌山県の小さな町に帰省した。高齢者が集まると自分の病気体験を自慢しながら、明るく楽しく暮らしている。もちろん、疾病や障がいに苦労している人もいるが、総じて人生経験豊かな高齢者の気持ちは若い。これからは、少子高齢化社会の問題点、課題先進国としての日本、といったありきたりの表現はやめて、少産・長寿を達成した日本の「ウェルビーイングの再発見」を世界に発信していきたいと痛感した。

「持続可能な開発目標(SDGs)」では、すべての人々が、経済的な困難なしに、必要なときに、必要な場所で、ニーズに応じた質の高い保健医療サービスに十分にアクセスできるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成が大きな課題である。最近、WHOは、UHC達成のために必要不可欠な介入ほとんど(90%)は、プライマリヘルスケア(PHC)アプローチを通じて実施可能であり、2030年までに6000万人の命が救われ、世界全体の平均寿命が3.7年伸びる可能性があると言及している。

PHCとは、1978年にアルマ・アタ宣言で提唱された「すべての人々に健康を!」という目標を達成するための世界戦略である。健康は基本的人権であり、住民の完全参加のもとで、保健医療サービスの公平な提供やユニバーサル・アクセスをめざしている。多くの国では、アルマ・アタ宣言の時代には想定されていなかったICTやAI技術、プラネタリーヘルス(地球の健康)などの気候変動対策などを加味して、いまもPHCを保健医療戦略の軸として取り組み、UHCの達成をめざしている。

日本は、1961年に国民皆保険を達成したUHCの先進国として世界から羨望の眼差しを受けている。しかし、近年はエッセンシャル・ドラッグ(必須医薬品)の長引く品不足といったPHCの基本が揺るぎかねない状況に見舞われている。日本国内において、UHCとPHCを新しい時代にふさわしい戦略として位置づける必要があろう。その上で、少産・長寿を達成した理想郷の国だからこそ発信できる、高齢者、子ども、障害者など多様な人々のウェルビーイングを明らかにする活動が興隆することを期待している。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[少子高齢化][長寿][プライマリヘルスケア(PHC)][ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)]

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