子ども虐待医学に関する基本的な研修は、2020年に15年ぶりに改訂された『医師臨床研修指導ガイドライン』により必須化された。その研修方法については、日本小児科学会の分科会である日本子ども虐待医学会の主催する「医療機関向けの虐待対応啓発プログラムBEAMS」等、医学の一分野としての虐待医学に基づく研修が求められた。2020年以降に医師免許を取得した医師は、虐待医学についての基礎教育を受け、虐待対応についての知識と技術を学び現場に出ることとなった。
一方、2020年より前に医師免許を取得した医師の多くは虐待医学に関する教育をほとんど受けていない。2022年の診療報酬改定で養育支援体制加算が新設され、小児入院病棟を持つ医療機関において入院医療管理料に1入院につき300点が加算されることになった。その要件の1つとして、職員研修の企画・実施が入っており、医師を含む病院職員に対する啓発活動が求められた。
また、小児科診療所に対しても2024年の診療報酬改定で小児かかりつけ診療料の要件に指導すべき内容として「不適切な養育にも繋がりうる育児不安等の相談に適切に対応すること」が追加され、施設基準として「虐待に関する適切な研修を修了していることが望ましい」と明記された。小児科を標榜する医療機関においては徐々に虐待医学に関する基礎教育の機会ができつつある。
しかしながら、多くは非小児科医である園医・学校医に対しては、虐待医学に関する基礎教育の機会が十分にないのが現状である。2024年6月に日本医師会が発行した「学校医のすすめ」の中でも子ども虐待については性被害の部分でごくわずかに触れられているのみである。園医・学校医は地域のすべての子どもたちに出会う貴重な機会を持っており、子ども虐待やこども家庭福祉に関する知識は必須である。
また、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)等、学校において専門職の配置が進む中、虐待医学やこども家庭福祉について園医や学校医が正しい専門知識を持ち、教員だけでなくSCやSSWなどと「チーム学校」の一員として協働し適切な助言指導を行うことが求められている。
今後、園医・学校医に対して虐待医学やこども家庭福祉に関わる研修を必須化するなど、学ぶ機会をつくっていく必要がある。
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[子ども虐待][園医][学校医][子ども家庭福祉]