膵がんは1980年代になってから死亡者数が急速に増加し、2023年には4万174人となり、とうとう胃がんを抜いて死亡者数で第3位になってしまった。膵がんは最も予後の悪いがんとして知られ、罹患者数と死亡者数がきわめて接近しているという特徴がある。
膵臓は胃の裏側の体の奥にあり、長い間、暗黒の臓器と呼ばれてきた。暗黒の臓器から発生する膵がんは当然のことながら診断がきわめて困難であり、今のように画像診断が進歩してくるまでは、生前に診断ができず死亡後の病理解剖で初めて診断がつくケースが圧倒的に多かった。膵がんは早期では自覚症状のないことが多く、進行してくると腹痛、食欲不振、黄疸などの症状が出現してくる。この段階になると多くは手遅れであり、手術さえ受けられないケースが多くみられる。助かる可能性のある膵がんはきわめて早期のものに限定されるため、超音波内視鏡検査、内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)、MR膵管胆管撮影(MRCP)など膵がんの診断に特化した特殊な検査が必要になる。したがってどこの施設でも簡単に診断できるものではない。
原因が同定されておらず、かつ早期診断が大変むずかしいことから膵がんの予防は一次予防、二次予防ともきわめて困難が伴うと考えられる。したがって、膵がんの死亡者数が増えて胃がんを追い抜いたとしても、現在胃がんなどで行われている対策型のがん検診が膵がんに適用されるということはありえない。なぜなら膵がんの画像診断検査はいずれも専門性のきわめて高いものであり、膵がん検診を受診する多くの方々を処理しきれないためである。現時点での最善の対策は、膵がんの危険群と考えられている、糖尿病、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などを中年以降に発症した方々に特化した膵がん検診を、専門病院で行うしかないと私は考えている。
これまで膵がんで亡くなる人を減少させるための具体的な提案はまったくなされていない。死亡者数で第3位になった今こそ、膵がん死亡者数を減少させるために何をなすべきか、厚生労働省の指導の下、消化器がん検診学会など関連学会で具体的な提案がなされるべきである。
浅香正博(北海道大学名誉教授)[がん検診][専門病院][画像診断検査]