大沢愛子 (国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)
登録日: 2024-12-23
入院しながらリハビリテーションを専門的に行う回復期リハビリテーション病棟では、対象疾患ごとに最大入院期間が定められている。たとえば脳血管疾患や脊髄損傷などは150日、大腿骨や骨盤などの骨折や膝関節の手術後は90日の入院が可能である。
しかし、これらの最大入院期間にかかわらず、なるべく効果的かつ効率的な治療を提供し、可能な限り早期に自宅復帰や社会復帰を果たすことがリハビリテーション治療の本来の役割である。多くの患者にとって、このような長期の入院は必ずしも必要ではない。すなわち回復期リハビリテーション病棟においては、入院時に立てた機能的ゴールにできるだけ早期に到達することができるよう練習を重ねながら、退院後の生活を想定した環境整備を行い、安全な生活復帰をめざしている。しかし、このような流れがうまくいかない場合もあり、特に正月やお盆、ゴールデンウィーク(GW)のような長期休暇は退院調整が難しくなる。
医療側からすると、この時期は家族も退院手続きが取りやすく、退院後の生活を一緒に確認することもできるため、退院に適した時期だと考えられる。患者側も「家で新年を迎えたい」「お盆の行事には参加したい」など退院時期に関するゴールを立てやすく、目標に向かって積極的なリハビリテーションに取り組むことができる。
一方で、家族側にもそれぞれの事情があり、患者に介助が必要な場合、「正月くらいは介護を気にせず家族だけでゆっくりしたい」「GWは家を空けるので患者の面倒をみられない」といった理由で、長期休暇前の退院調整が困難なことも多い。
急性期病院に勤務していると、家族の都合で退院を延ばすことなどありえないと感じるが、回復期リハビリテーション病棟に入院する患者の多くは、退院後も日常的に介助を要することが少なくない。患者の安全な生活復帰をめざすリハビリテーション医療の観点からは、家族の介助が期待できない環境で退院させることは難しい。
さらに、家族介護者の負担を軽減する公的サービスも、長期休暇前には新規契約が難しいことが多く、これが退院調整をより困難にする。強引に退院を勧めることは退院後の患者と家族の関係を悪化させる要因になりかねない。退院をめざして日々努力を重ねる患者の姿を知っているだけに、家族から退院の許可が得られない状況は、医療者として悩ましく、やるせない。
2024年も病院で年を越し、正月明けにようやく家族に退院を許される患者が何人もいる。核家族化や高齢化などの社会的変化、家族というものに対する考え方の変化、正月やお盆といった行事に対する意識の変化など、様々な要因が複雑に絡み合い、これも社会の縮図と感じながら、少し寂しさを覚える年の暮れである。それでも、患者の1日も早い社会復帰を願って、家族や福祉関係者と連携しながら解決策を模索し続けたい。
大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[社会の縮図][家族介護者][負担軽減]