▼新スローガンの「一億総活躍」の陰に隠れてしまっている感はあるが、人口減少と高齢化が確実な未来として迫っている今、「地方創生」が重要テーマであることに変わりはないだろう。地方に人をつなぎとめ、経済を活性化させる手立てが急務だ。その1つとして求められるのは、安定的な雇用の確保だが、医療・介護は非常に有望な受け皿になりうる。
▼2003~13年の「医療・福祉」産業の就業者数は、大都市・地方を問わず増加しており、同じ傾向を示す産業は他にない。ある産業で1単位の需要が発生した時、産業全体で誘発される雇用の大きさを示す「雇用誘発係数」でみれば、医療は建設と同等の約0.15。介護は約0.28で、全産業中でも3番目に高い。地方では医療・介護従事者が就業者全体に占める割合が大都市圏より高く、医療・介護の経済に占める重要性もそれだけ高いと言える。
▼ただ、医療・介護が安定した雇用の受け皿となれるのは、あくまで医療機関・介護施設の健全な経営が前提だ。その意味で、社会保障費削減を柱とする緊縮財政は、地方創生にとっても懸念材料となる。
▼財政制度等審議会財政制度分科会は24日、2016年度の予算編成に向けた建議(意見書)をまとめた。その中では、社会保障費の伸びを5000億円弱の範囲に収めるよう提言。診療報酬本体をマイナス改定とし、薬価の引下げで生じた財源は診療報酬本体に充てずに、医療費抑制につなげるよう求めた。
▼医療界の反発や来夏に控える参院選を考慮すると、政府が診療報酬マイナスに踏み切るかは不透明だが、2015年度介護報酬改定が2.27%のマイナスだっただけに予断を許さない。政府には、安易な緊縮財政の断行が、自らが将来的課題に掲げた地方創生にとっても足かせになることを認識してほしい。