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ante-situm法による肝切除の適応・有用性と問題点

No.4781 (2015年12月12日発行) P.59

山本雄造 (秋田大学大学院医学系研究科消化器外科講座 教授)

登録日: 2015-12-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

肝静脈根部に腫瘍が存在するような切除困難な症例では,体内肝冷却灌流によるante-situm法が採用される場合があります。しかし,本法はその技術的な難易度の高さのためか報告例も少なく,合併症率や術関連死亡率など蓄積されたデータはないようです。また,肝臓を体外に一度取り出してex vivo法で切除し,体内に戻す手術も,前述のような状態では適応になるかと思いますが,両者の使いわけなども不明です。そこで,秋田大学・山本雄造先生に,ante-situm法の短期・長期成績,適応,有用性,問題点についてお尋ねします。
【質問者】
田中邦哉:帝京大学ちば総合医療センター外科教授

【A】

ante-situm法と体外冷却保存下肝切除(ex vivo法)との大きな違いは,肝動脈の切離・再建と,胆管の切離・再建の有無です。1988年にPichlmayrが発表したex vivo法は腫瘍の存在部位にかかわらず,複雑な切除も可能にします。しかし,術後の高い肝不全死亡率が指摘されています。2000年にPichlmayr門下のOldhaferがex vivo法の成績をまとめ,肝不全の原因として,肝動脈再建と胆道再建のトラブルを挙げています。
一方,ante-situm法はportal triadを切離しないため,無肝期を短縮でき,しかも動脈吻合や胆管吻合という肝移植で重大な合併症の原因となっている部分を回避できます。もともと筆者らは京都大学で人工血管グラフトを用いた複雑な肝静脈再建を伴う肝切除を目標としていましたから,このante-situm法の特徴がぴったりだったのです。すなわち,ante-situm法の有用性は,肝動脈再建にまつわる致死的な合併症を回避でき,人工血管のような感染に脆弱な異物を体内に残す手術であっても,胆道再建に起因する感染源を排除できることです。肝細胞癌では,胆道再建のないante-situm法は将来の肝動脈塞栓療法やラジオ波焼灼治療に際して,肝膿瘍の原因になりにくいと言えます。
他方,問題点は,左右どちらからでも3区域切除のように肝を2分する手術には適しますが,多数の結節をcherry-pickingのようにくり抜かなければならない手術ではex vivo法のほうが優れていることだと思います。理由は,ante-situm法は残肝を体内に保持したまま手術を行うため,肝の冷却用に安定した肝灌流を維持する必要があり,門脈のねじれなどに常に気を配る必要があることや,長時間の冷却灌流では患者体温の低下が生じやすいためです。また当然のことながら,肝静脈根部の腫瘍には有用ですが,肝門部の腫瘍には不適切な手術手技です。
術後成績は検討報告がなく,お答えは簡単ではありません。ex vivo法については先のOldhaferの報告が詳しく,24例中8例(33%)が肝不全・敗血症をもとに周術期(90日以内)に死亡したとあります。この結果を受けてOldhaferは,ex vivo法は症例を選ばないと危険であり,肝静脈根部だけが問題である場合にはante-situm法が適応になるであろうと述べています。
ante-situm法の死亡率を報告した論文はありませんが,ex vivo法に比して圧倒的に低いとされています。しかし,筆者らが文献上で集計した範囲では2012年までの52例のうち少なくとも5~6例は術後早期に死亡しており,約10%の周術期死亡があると推測します。筆者らの経験した8例でも1例が敗血症で死亡しています(12.5%)。長期成績に関しては,この手術が適応となるのは超進行状態のがん患者が大多数で,海外では転移性肝癌がそのほとんどを占め,2~3年以上を見込むのは難しいようです。しかし,筆者らの施設では肝細胞癌の患者で,無再発で8年目に入ろうとしている人もいます。

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